損害賠償債務は自己破産で免責することができる？

自己破産の基礎知識

借金返済ができなくなった時に、法的に借金を整理し、解決していくことを「債務整理」と言います。

この債務整理ですが、「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類の方法があり、中でも最も強力なのが「自己破産」です。
自己破産が認められると、基本的に借金をゼロにできます。つまり、債務がすべて免除されるということですね。

大きなメリットがある反面、原則的に，家・車・一定額以上の預貯金は手放すことになります。
ゼロからの再出発にはなりますが、借金もすべてなくなるので、その後の経済的な再建がしやすいでしょう。 借金苦で悩んでいる人にとっては、魅力的な制度です。

しかしながら、自己破産をしても免除されない債務も存在します。
それは「非免責債権」と呼ばれ、何が対象になるかは破産法で定められています。

自己破産しても支払う必要がある「非免責債権」

「非免責債権」は、たとえ自己破産が認められていても、必ず支払わなければいけない債務のことです。
破産法の253条第1項により決められているもので、“債務免除を認めると、社会正義に反する結果となることや、不平等な結果が導かれてしまうことを考慮し、規定されたもの”となっています。

具体的には下記が該当します

非免責債権の種類

特定の損害賠償債務が自己破産の免除対象にならない理由

特定の損害賠償債務は破産法によって免責の対象になっていません。
必ず民事裁判の被告が原告に損害賠償債務を支払う義務が課せられています。 そこには被害者保護の視点が組み込まれています。

それでは、非免責債権における損害賠償債務について、詳しく解説していきましょう。

破産者が悪意で加えた不法行為とは？

非免責債権に出てくる「悪意」は、他人を害する積極的な意欲のことです。
具体例としては、ドメスティックバイオレンス（DV）が挙げられます。

夫婦が離婚協議になった場合ですが、夫が妻に身体的な暴力を加えたこと、つまりDVが原因の場合は、「悪意で加えた不法行為」と認められる可能性が高いです。 その場合、妻に支払われるべき慰謝料は免除されません。

ほかには、人の物を盗んだ・横領したという場合も、「悪意で加えた不法行為」とされます。

破産者が故意もしくは重過失によって加えた、人の生命・身体を害する不法行為とは？

このケースは、交通事故を参考にすると分かりやすいです。
交通事故では、重過失（重大な過失）があると認められるかどうかがポイントとなります。

例えば、飲酒運転やあおり運転による死亡事故。これは重過失による不法行為が認定される事例です。
危険運転致死傷罪が成立するような悪質な事故の場合、重過失があると免責にならない可能性が高いでしょう。

危険運転致死傷罪が成立のするのは、飲酒運転・スピード超過（時速30km以上・ただし高速道路を除く）・薬物使用・無免許運転・居眠り運転、ひき逃げなどの場合です。

一方、わき見運転などの不注意による事故の場合、安全運転義務違反となりますが、重過失とは言い切れないため、損害賠償債務は免責される可能性もあります。

また、物損事故の場合は過失があっても、生命・身体に害を与えているわけではないので、免責となります。
しかし、交通事故による罰金刑は免責されないので覚えておきましょう。

交通事故はケースバイケースなので、免責になる・ならないは自己判断が難しいところです。
そして「人身事故を起こしてしまったから自己破産ができない」ということもありませんので、まずは弁護士に相談するのが確実です。

租税や損害賠償債務が払えない場合は？

非免責債権は法律に規定されているので、自己破産しても支払い義務があります。 ただ一方で、どうしても支払い困難な破産者がいるのも事実です。 そもそも自己破産したわけですから、金銭的余裕などがあるはずがありません。 それでは、損害賠償債務が払えない場合は、どうしたらいいのでしょうか。

まずは相談や個別交渉を

税金や公租公課は、市役所や区役所に相談をしましょう。分納・猶予・免除などが認められる可能性があります。

損害賠償債務は、支払うべき相手（被害者）が存在するため、その相手と個別に交渉しなければなりません。そこで、減額・猶予などを認めてもらうことが必要です。

しかし、損害賠償債務を支払う相手は被害者であるため、感情的になっていることが多いです。そのため減額や猶予は、簡単には応じてもらえないのが普通でしょう。
自分自身で相手と交渉するのはかなり難しいですし、さらなるトラブルにつながる可能性もあるので、弁護士など第三者に介入してもらうのが安心です。