【Q＆A】不注意で起こした交通事故の賠償債務などは自己破産で免責されますか？

Q32、不注意で起こした交通事故の賠償債務、離婚時の慰謝料、養育費などは自己破産をして免責されますか？

A32、重大な過失や故意の場合には、損害賠償債務等が免責されません。

破産制度というのは、裁判所の管理のもとで債務者の財産を整理して再起を図るという目的があります。ですから、破産手続開始が決定されて免責の決定があった場合、債務者は債務から解放されます。

この債務とは、借金だけではなく交通事故などの不法行為（故意または重大な過失による不法行為を除く）に基づいた「損害賠償債務」「慰謝料債務」なども含まれたものです。 もし免責が決定した時点で、「過失相殺（債権者の過失を考慮して賠償額を減らすこと）」の有無、金額などに関して争いがあった場合でも、原則は免責されます。

ただし、いくつかの債務に関しては例外的に免責対象にならないものがあります。
政策的な目的から、税金や社会保険の滞納があっても免責されません。ほかに、損害賠償債務も例外的に免責対象とならない場合があります。

破産法では「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債務」は免責されない規定となっています。「悪意」とは、積極的加害意思のことで、故意または重過失よりも狭い意味です。

そして「破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償債務」も免責の対象外です。
「故意」＝「わざと」、「重過失」＝「重大な不注意」を意味しています。
該当する例を挙げると、飲酒運転で人を轢いてしまった場合ですね。

このような場合に免責とすると、被害者にとってはあまりにも残酷です。そのため免責対象外とされているのです。
不注意による交通事故は、重過失というほどの事故ではありませんので、免責になる可能性は高いでしょう。

ただ、破産手続によって免責の対象になる債務というのは「破産手続開始の決定」より以前に発生した債務です。
ですから、破産手続開始決定の以前に生じた交通事故の損害賠償債務は免責されますが、決定後に生じた事故の損害賠償は免責の対象になりません。

また同じように、離婚が決定して慰謝料を支払うことになった場合も、決定前であれば免責の対象ですが、決定後であれば免責の対象になりません。

自己破産をした場合の養育費や生活費の支払い義務について

親族間の扶養義務に基づく債務というのは、免責の対象に含まれない支払い義務です。 破産した人が夫婦や親子、兄弟姉妹などの関係に基づいて負担する義務は免責されません。破産をして免責が決定しても、親族の関係まで否定されるわけではないのです。子供の扶養義務を免責すると、子供の成長や福祉的によくないということは明白ですよね。

破産法では、扶養義務そのものではない場合（それに近い義務での契約で発生した義務）でも、破産者は免責されないことになっています。これは、離婚後の生活費負担義務が該当する可能性があります。

例えば、離婚をして妻が親権者になったと仮定します。妻が専業主婦だったので、生活費や子供が成人するまでの養育費を債務者が支払うと決めていた場合、債務者が破産手続をして免責決定されても、生活費や養育費は支払い続ける必要があります。

ただし、判断はケースバイケースとなる可能性が高いため、弁護士と相談する必要があります。

免責の対象にならない債権

・租税、社会保険料の請求権。
・破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債務
・破産者が故意または重過失により人の生命または身体を侵害した場合の不法行為による損害賠償債務。
・養育費、扶養料など。
・雇用関係に基づき発生した使用人の請求権、使用人の預り金返還請求権。
・債権の存在を知っているのに破産者が故意に債権者名簿に記載しなかった請求権。
・罰金、科料などの請求権。