子どもに喜ばれる生前贈与のやり方や節税のための注意点とは?
生前贈与の種類と節税効果について
亡くなった時にその人の財産を引き継ぐ相続に対し、生前に財産を分け与えるのが生前贈与です。
親の視点でみれば、存命中にお金を渡すことで子どもの喜ぶ顔が見られる、特定の子どもに多く資産を分けられるなどのメリットがあります。
生前贈与は種類によって非課税枠があるため、相続させるよりも節税効果が期待できます。そのため、実際に相続税を節税する目的で行われることがありますが、非課税枠を超えて贈与すると「贈与税」が発生してしまうため注意が必要です。
〇生前贈与の種類と非課税枠
一括贈与(相続時精算課税制度)2,500万円 | 住宅取得等資金贈与1,200万円 (省エネ等住宅以外は700万円) |
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直系尊属から教育資金の一括贈与1,500万円 | 直系尊属から結婚、子育て資金の一括贈与1,000万円 |
夫婦間で居住用の不動産を贈与2,000万円 (居住用不動産を取得するための贈与も含む) |
暦年贈与年間110万円 |
このように、非課税枠を上手く利用すれば相続よりもお得に財産を相続させられます。
生前贈与は必ずしも節税になるとは限らない
非課税枠があるからといって、生前贈与で子どもに多額のお金を渡してしまうと、相続時に損をする可能性があるため注意しなければなりません。
なぜなら、生前贈与を行った時期によっては相続税が増税されてしまうからです。
これは、生前贈与加算とよばれる制度で、相続開始前(被相続人が亡くなる前)の3年以内に相続人が贈与を受けていた場合、贈与された財産を相続財産に持ち直して計算するというものです。
例えば、贈与から1年後に被相続人が亡くなった場合、生前贈与がなかったものとみなされるため、非課税枠の範囲内であっても相続税の課税対象になってしまうわけです。
2023年(令和5年)の税制改正により、生前贈与加算の期間が3年から7年に延長されました。
7年ルールが適用されるのは、2024年1月1日以降の贈与となります。
被相続人が高齢であるほど生前贈与での相続税対策が不利になるといっても過言ではありません。
特に、暦年贈与を利用して節税を考えていた方は、相続のやり方について再検討する必要が出てくるでしょう。
子どもに喜ばれる生前贈与のやり方とは?
では、生前贈与で損をせず、子どもに喜んでもらうにはどのようなやり方で生前贈与をすればよいのでしょうか。
いくつかのケースで考えてみましょう。
生前贈与は平等に行う
生前贈与は、子どもが必要としているタイミングにまとまったお金を渡せるため、特定の子どもに偏って贈与してしまいがちです。
しかし、親から子ども(兄弟姉妹)に贈与する場合、平等でなければ後にトラブルの原因となります。
「次男は結婚して実家を出るから住宅取得等資金贈与で1,000万円をあげる、長男はまだ実家にいるから暦年贈与で100万円くらいに抑えておく」というような不平等な贈与の仕方だと、長男の視点からみると差別されているように感じてしまいます。
よかれと思って贈与したのに、遺産分割協議の際にトラブルになったら本末転倒です。
一部の贈与(結婚資金や生活の資本金、養子縁組のための贈与)は特別受益に該当するため、最悪の場合、長男が次男に対して遺留分侵害額請求を行うこともあり得ます。
これを防ぐためにも、子どもへの贈与は平等に行うことが大切です。
相続人ではない孫に贈与する
生前贈与加算は相続人に対して加算されるものですので、相続人でない人は対象外です。
ですから、相続人ではない孫や子どもの配偶者への贈与であれば、贈与から7年以内に死亡しても相続税は課税されません。
子どもが愛情を持っている相手への贈与であれば、子ども自身への贈与でなくとも喜ばれるに違いありません。
ただし、孫や子どもの配偶者が相続財産を受け取る場合は生前贈与加算の対象になるため注意が必要です。
遺言書で財産の一部(または全部)を相続する、あるいは生命保険金を受け取る場合は相続税がかかります。
そのため、相続税対策の視点からすると、①孫や子どもの配偶者に贈与し、相続はさせない②子どもに贈与をし、相続させない旨の遺言をするといういずれかの方法が有効となります。
不動産の贈与は土地の値上がり前に行う
不動産の生前贈与は場合によっては相続税対策になります。
もっとも効果的なのは、将来的に土地の値上がりが予想される場合です。
相続税は不動産や土地の資産価値によって計算されますが、一括贈与(相続時精算課税制度)で不動産を贈与するケースでは、相続時の時価ではなく贈与時点での時価が採用されます。
不動産を早めに生前贈与しておけば、相続時に土地が値上がりしていても、高い相続税を支払う必要がないわけです。
逆にいうと、将来的に土地の値下がりが想定される場合は、不動産の生前贈与で損をする可能性があります。
相続時には資産価値が低くても、贈与時に資産価値が高ければ、高い相続税を支払わなければなりません。
まとめ
生前贈与を相続税の節税のために検討されている方は多いですが、法改正などもあり必ずしも得をするわけではありません。
生前贈与を平等に行うことや相続税の負担を減らす方法で贈与すれば、子どもは大いに喜んでくれるでしょう。
ただし、非課税枠にこだわりすぎて後で後悔するケースもあるため注意が必要です。
教育資金などで一括贈与を行うと、贈与した時に子どもから感謝されるでしょうが、相続についてまるで知らない孫からは感謝されない…といったことになりかねません。
それならば、少ない金額でも孫に会うたびにお金を渡して、その都度感謝された方がよいとも考えられます。
大切なことは、生前贈与を節税のためだけと考えず、お金を使う有効に使ってもらうことです。
贈与の際は「技術を身につけるため」「得意な分野を学ぶため」など、具体的な使い道を提案してみるのも一つの手です。
生前贈与で失敗しないためにも、一度弁護士に相談されることをおすすめします。

相続担当弁護士
村上 和也
プロフィール
同志社大学卒。平成20年より事務所開設し、守口市・門真市を中心に大阪で相続に関する相談多数。遺言・遺産分割・遺留分・遺言執行・事業承継・成年後見など。
弁護士からのメッセージ
遺言作成や遺産分割協議を数多く手掛けてきており,危急時遺言の作成実績もある数少ない法律事務所です。
ささいなことでも結構ですので,お早めにお問い合わせください。