死後事務委任契約
人が死亡すると,葬儀の実施,役所に対する手続,病院代等の支払,年金手続など,様々な事務が発生します。
こうした,死後事務を第三者に対して委任する契約として「死後事務委任契約」というものがあります。
ここでは「死後事務委任契約」の具体的内容やその特徴などをご紹介させていただきます。
1.そもそも死後事務委任契約とは
死後事務委任契約とは,自身の死後事務に関し,第三者に委任する契約のことをいいます。この場合,自身の死後事務を他人に委託する人を「委任者」,委任者から死後事務を受託する人を「受任者」といいます。
通常,自分が死亡した後の事務は,配偶者や子供といった相続人または親族等が行うことかと思われます。
しかし,現在社会問題としても取り上げられているように,子供のいない高齢者夫婦や一人暮らしの高齢者の方が増えており,そうした場合には相続人がそもそもいなかったり,相続人や親族がいた場合でも疎遠のため,そもそも自身の死後事務が処理されなかったり,処理されたとしても,希望通りに処理されないといったおそれがあります。
そこで,自身の死後事務につき,生前に第三者に対して委任し,自分の希望通りに実現するための方法として,現在「死後事務委任契約」が注目されています。
〇死後事務委任契約の利用が必要と考えられる場合
以下のような場合は,死後の事務処理において自己の希望を実現するために,「死後事務委任契約」が必要になると考えられます。
・子どものいないご夫婦や,一人暮らしの方など,もしもの場合に頼れる家族や親族等がいない場合
・兄弟姉妹や親族等が既に高齢で,自身の死後事務を依頼することが不安な場合
・兄弟姉妹や親族と長い間疎遠になっており,自身の死後事務の処理を期待できない場合
・死後,散骨・樹木葬といった特殊な葬送方法を希望したり,献体・臓器提供などを希望する場合
・自身の葬儀費用について,生前に家族・親族・第三者に預託しておきたい場合
2.死後事務委任契約の特徴
死後事務委任契約の特徴として,まず「委任者が死亡した場合においても契約を終了しない」という合意を前提とした委任契約であるという点が挙げられます。
委任契約は民法上,当事者の一方が死亡した場合は終了しますが(民法653条1号),あくまで任意規定であるため,死後事務委任契約では,当事者間の合意により排除することとなります。
また,受任者は委任された事務処理につき善管注意義務(事務処理を委任された人の職業や専門家としての能力などから考えて通常期待される注意義務のことです。民法644条)や事務処理が終了した後は遅滞なく相続人に対し報告する義務(民法645条)などといった法的義務を負うため,死後の事務処理の確実な実現を期待することができます。
3.死後事務委任契約の具体的なメリット
上記のとおり,死後事務委任契約では,自身が元気な間に,自分の意思で死後事務の具体的な処理の仕方等を契約という形で第三者に依頼することで,自分の希望を反映した死後事務の処理に法的拘束力を持たせる点が最大のメリットと言えます。
例えば死後にしか実現することのできない内容の事務(自身の葬儀や埋葬の方法など)を自身の生前の希望通りに実施してもらうことができます。また,飼っているペットの面倒について,頼れる親族等がいない場合には,希望する施設へ入所させたり,親族等には見られたくないツイッター,フェイスブック,ブログといったSNSの削除又は閉鎖を第三者に依頼するといった使い方も考えられます。
〇死後事務委任契約の一般的な内容
・親族,知人,その他関係者に対する連絡
・通夜,告別式,葬送方法,永代供養等に関する事務処理
・病院や老人ホーム等の生前利用していた施設の支払に関する事務処理
・生前住んでいた住居の家賃,地代などの支払や敷金・保証金などの支払,賃貸物件の明渡しに関する事務処理
・行政官庁などに対する各種届出などといった手続
・上記の事務に必要な費用の支払
〇死後事務委任契約書を利用した様々な葬送方法
現在,散骨(故人の遺骨を粉末状にした後,海・空・山中等でそのまま撒く葬送方法)の人気が上昇しているようです。他にも葬送方法として樹木葬(墓地に遺骨を埋葬して,遺骨の周辺にある樹木を墓標とする葬送方法)も注目されています。
こうした葬送方法については自身の死後に行われるものであるため,生前に誰がいくらの費用でどういった方法で行うか決めておかなければ,自己の意思と相続人等との間で考え方に食い違いが生じ,実現されない可能性があります。
そこで,「死後事務委任契約」で具体的葬送方法についても委任すれば,受任者はその葬送方法の実施について法的義務を負うため,希望した葬送方法を実現できることとなります。
4.遺言・後見との違い
「死後事務委任契約」を締結しなくとも,エンディングノートや遺言書で死後の手続についても記載する方法や,後見人がいる場合には後見人が事務処理を行ってくれると考える人もいるかもしれません。
しかし,まず,エンディングノートには法的効力がありません。次に,遺言書に葬儀や死後の事務手続について記載したとしても,その記載部分については,法的拘束力は生じません。
遺言において法的拘束力が生じる部分は,財産に関係する遺言事項や身分関係に関する事項等(遺言の「法定事項」といいます)に限られており,死後の事務手続については法定事項に当たらないためです。そのため,死後実現されない可能性が生じます。
また,後見人については,本人の死亡が後見業務の終了原因となっています。そのため,後見人は,原則として本人の死後の事務手続について行う権限もなければ,義務もないということになります。
このように,遺言書や後見契約ではカバーすることのできない死後の事務手続について「死後事務委任契約」であればカバーすることができます。
まとめ
以上のとおり,「死後事務委任契約」を締結しておけば,自分が死んだ後の事務について放置されることなく,自分の希望に沿って処理することができます。
今回ご紹介した「死後事務委任契約」だけではなく,他にも遺言の作成や遺産分割協議など相続に関してお困りの方がいらっしゃいましたら,守口門真総合法律事務所へお気軽にご相談ください。
相続担当弁護士
村上 和也
プロフィール
同志社大学卒。平成20年より事務所開設し、守口市・門真市を中心に大阪で相続に関する相談多数。遺言・遺産分割・遺留分・遺言執行・事業承継・成年後見など。
弁護士からのメッセージ
遺言作成や遺産分割協議を数多く手掛けてきており,危急時遺言の作成実績もある数少ない法律事務所です。
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