相続と税金
個人が亡くなると、相続が発生します。遺された相続人は、遺言があるかどうかの確認や、相続人間で遺産分割協議をすることになります。相続や遺贈によって財産を取得した場合、相続人が考えなければならないのが、相続税のことです。
相続税の申告が必要な人は、相続税額の計算をして基礎控除額を超える場合に、相続財産を取得した人です。平成27年1月1日より相続税法が改正されて、遺産に係る基礎控除額が引き下げられましたので、相続税を課税される方も増えるかもしれません。
相続税の申告期限は、相続発生日(亡くなられた日)の翌日から10か月以内とされています。財産の調査や価額の評価、法定相続人の確認などの調査にも時間がかかりますので、早期に、弁護士や税理士に相談ください。
1 相続税額の計算
相続税は、「相続人それぞれが相続や遺贈等により取得した財産の価額の合計等」から、「基礎控除額」を控除して算出された「課税遺産総額」を、「法定相続人が法定相続した場合に各人に課せられる相続税の総額」を計算し、取得した財産の価額に応じて按分して課税されます。
以下、順を追って簡単に説明します。
(1)まずは、相続人それぞれの課税価格を計算します。
①各相続人が相続や遺贈によって取得した財産の価額(プラスの財産)
+②相続時精算課税制度を適用した財産の価額 (特例の財産)
-③被相続人の債務・葬式費用の金額 (マイナスの財産)
+④相続開始前3年以内に贈与された財産の価額(死亡直前の贈与)
=相続人それぞれの課税価格
相続人それぞれの課税価格を合計して、課税価格の合計額を算出します。
(2) つぎに、基礎控除額を控除して課税される遺産総額を計算します。
課税価格の合計額 - 遺産に係る基礎控除額 = 課税遺産総額
(遺産に係る基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数)
※平成27年1月1日以降に発生した相続に係る基礎控除額
課税されるのは、遺産に係る基礎控除額を超える部分です。
たとえば、課税価格の合計額が1億円で、法定相続人が3人の場合には、
「1億円-(3,000万円+(600万円×3))=5,200万円」
となり、5,200万円について課税されます。
ちなみに、養子縁組をした場合の養子も法定相続人に数えられますが、基礎控除額の算定に加えられる養子の数には上限があります。
(3) 相続税の総額を算定します。
算出した課税遺産総額を法定相続人が法定相続分に応じて取得したものと仮定し、各人ごとの取得金額を計算します。 次に、その各人ごとの取得金額にそれぞれ相続税の税率をかけた金額を計算し、その各人ごとの金額を合計します。これが相続税の総額です。
(4)納付すべき相続税額を計算します。
相続税の総額を、課税価格の合計額に占める各人の課税価格の割合で案分して計算した金額が、各人ごとの納付すべき相続税額となります。 なお、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の人(孫や兄弟などがこれに該当します。)については、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。
最後に、各人ごとの相続税額から「贈与税額控除額」、「配偶者の税額軽減額」、「未成年者控除額」、「障害者控除額」、「外国税額控除額」、「相次相続控除額」などの税額控除の額を差し引いた金額が各人の納付すべき相続税額となります。
相続税の特例
相続税の計算においては、様々な特例があります。
代表的なものを挙げておきます。
(1)小規模宅地等の特例
個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。
(2)配偶者の税額軽減
配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
- ・1億6千万円
- ・配偶者の法定相続分相当額
(3)特例の適用要件
これらの特例を適用するには、相続税の法定申告期限までに、遺産分割が出来ていることが必要となるのが、原則です。
しかし、特例を適用させるために「とりあえず」遺産分割を成立させることは避けなければなりません。遺産分割に「とりあえず」はありません。
相続税の法定申告期限までに遺産分割が成立しそうになければ、遺産分割の協議中であるとか調停中であるという理由をもって、特例の適用のための期限を3年間延長できます。相続税の申告は遺産分割未了として申告して下さい。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、65歳を超えた父又は母から、20歳を超えた子が贈与を受ける場合には、2,500万円までは贈与税を非課税とし、2,500万円を超えた部分については20%の税率の贈与税を課税するという方法です(相続税法21条の9)。
相続時には、その時点での相続財産に、相続時精算課税を利用した生前の贈与額を加算し、その合計額を相続税の課税財産として相続税率を乗じて、そこから支払い済みの贈与税を差し引くという精算課税をします。
いずれ相続税の課税対象になるという意味では、相続税の計算については中立的であり、特に有利なところはありません。
しかし、民事上の問題を解決する場合には、様々な対策のためのツールとして機能します。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(租特法39条)
相続した資産を売却した場合には、譲渡所得から差し引かれる資産の取得費について、相続税額を取得費に組み入れるなど、優遇する特例があります。
相続税の申告期限から3年以内に資産を売却した場合に限っての特例です。
まとめ
本ページでは、相続に関わる一般的な説明をしましたが、具体的なご相談は、守口門真総合法律事務所まで、お問い合わせ下さい。
以上のように、相続の際には、民法だけでなく相続税関連法規も参照しなければ、紛争の種を後に残してしまうおそれがあります。相続税の対策や、相続税を可能な限り抑えた遺産分割の方法、相続財産を売却する際の税金なども踏まえて、相続にあたって紛争を残さないように解決することが大切となります。
守口門真総合法律事務所は、地域密着型で、守口市、門真市の方だけでなく、京阪電車守口市駅西口徒歩1分の立地にありますので、沿線の方にもアクセスしやすい場所にあります。
相続と譲渡所得税(相続不動産を売却する場合)
1.譲渡所得税
「所得税」という言葉は、皆様もよく御存知かと思います。所得税は、個人の所得に対してかかる税金です。会社員の方は、毎月の給与から所得税の源泉徴収がなされ年末調整で還付を受けられたり、個人事業主の方は、所得税を納付するため確定申告を行ったりするなど、私達にとって一番身近な税金かもしれません。
では、「譲渡所得税」はどうでしょうか。譲渡所得税は、「所得税」とつきながらも、あまり聞きなれない言葉かもしれません。
しかし、譲渡所得税は私達の生活に身近なものであり、多くの方が関係する税金です。ここでは、「譲渡所得税」の計算方法につき分かりやすく説明していきます。
2.譲渡所得税はどんな時に発生するのか
譲渡所得とは一般的に、土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することによって生ずる所得をいいます。
例えば、2,000万円で不動産(土地・建物)を売却する場合を考えてみましょう。
この不動産を1,000万円で手放せば、1,000万円の赤字ですから、当然譲渡所得は発生していません。
では、3,000万円で手放した場合はどうでしょうか。この場合、2,000万円で購入した不動産を、3,000万円で売却したわけですから、1,000万円の黒字ですね。この1,000万円の黒字が、譲渡による所得とみなされることになります。よって、譲渡所得税が発生します。
もっとも、①地価が下がっている地域が多いこと、②建物は築年数に応じて資産価値が大きく目減りしていくことから、不動産を売却して利益が出ることは多くありません。そのため、譲渡所得税は身近な問題ではないと考えている方も多くおられます。
しかし、譲渡所得税が最も発生しやすいケースは、古くから所有している不動産(土地・建物)を譲渡するケースなのです。古くから所有している不動産はないという方でも、今後、相続によって不動産を取得する可能性があります。「不動産を相続によって取得した後売却することになった」というケースが、譲渡所得税が発生する最も身近な場合といえます。
3.譲渡所得税の計算式
参考事例
Aさんは、親からの相続によって不動産(土地・建物)を取得しましたが、親と別世帯であったことから、今後当該不動産に居住する予定はなく、固定資産税も毎年発生するため、不動産を売却することにしました。
不動産業者で売却価格の査定をとったところ、古くなった建物(昭和60年建築)を取り壊せば(取壊し費用:200万円)、土地を2,000万円で売却できることが分かったため、建物を取り壊したうえ、土地を第三者に売却しました。
なお、Aさんの親が当該不動産を取得したのは随分昔のことであり、取得時の価格は判明しませんでした。
譲渡所得税の計算式は以下のとおりです。
譲渡所得税額 = 4.課税譲渡所得 × 5.税率(所得税・住民税)
以下、①課税譲渡所得 、②税率(所得税・住民税)のそれぞれについて、参考事例に当てはめながら、説明していきます。
4.課税譲渡所得(課税対象額)の算出
課税譲渡所得(課税対象となる譲渡所得の額)は、以下の計算式により算出されます。
Ⅰ収入金額 -(Ⅱ取得費 + Ⅲ譲渡費用) -Ⅳ 特別控除額
<参考事例に基づいた計算>
Ⅰ 収入金額
収入金額とは、簡単に言えば「売却代金」のことです。本件では、不動産の査定金額である2,000万円がこれに該当します。
Ⅱ 取得費
取得費とは、不動産の取得に要した費用です。
次の①、②のうち、大きい金額を使うことになっています。
①概算法:
譲渡収入金額×5%
②実額法:
土地建物の購入代金、建築代金、購入の仲介手数料の他リフォームの設備費や改良費など取得に要した費用を合計した金額から、建物の減価償却費を差し引いた金額。
ここに、古くから所有している不動産を譲渡する場合に、譲渡所得税が発生する理由があります。
まず、古くから所有している不動産を譲渡する場合、取得時の価格を証明できないことが多々あります。その場合、原則として、譲渡収入金額(売却代金)の5%を取得費とみなすことになります(概算法)。
一方、取得時の価格を証明可能な場合、実額法を用いることができます。
しかし、過去の貨幣価値と現在の貨幣価値は大きく異なるため、取得時の価格は、現在の価格と比べ著しく低額なものである可能性が高いといえます。過去に遡れば遡るほど、取得時の価格はより低額なものとなります。
→参考事例では、取得時の価格を証明できないため、概算法によることになります。2,000万円×5%=100万円ですから、100万円が取得費となります。
※ 相続税が取得費に加算される特例がありますので、不動産を相続する際に相続税を納付した方は、取得費が増額される可能性があります。
【特例を受けるための要件】
①相続によって財産を取得した者が売却したこと
②その財産を取得した者が相続税を支払ったこと
③相続開始日から3年10か月以内に売却したこと
Ⅲ 譲渡費用:
譲渡費用とは、譲渡のために直接要した費用のことをいい、以下のものが挙げられます。
①土地や建物を売るために支払った仲介手数料など
②登記若しくは登録に要する費用
③印紙税で売主が負担したもの
④貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料
⑤土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用、建物の損失額
⑥測量に要した費用
⑦売る契約をした後に、他へ高い価額で売却するために(更に有利な条件で売るため)最初の契約者に支払った違約金
⑧借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
⑨その他その資産の譲渡価額を増加させるためその資産の維持や管理のためにかかった費用
→参考事例では、仲介手数料(66万円)、建物取壊し費用(200万円)を計上することができます。
※ 事例を簡易化するため、主要なものに限って計上しています。
Ⅳ 特別控除額
さらに、特例適用の要件を満たせば、特別控除を受けることができます。
代表的なものを挙げます。
・マイホームを売ったときの特例
マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最大3,000万円まで控除ができる特例があります。
①相続人が被相続人と同居していた場合や、②相続で不動産を取得後、そこに移り住んだ後に売却した場合などに、この特例が適用される可能性があります。
※もっとも、以下のケースに該当する場合、適用除外となりますので、ご注意ください。
(1)この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
(2)居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
(3)別荘などのように主として趣味、娯楽又は保養のために所有する家屋
・被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
以下の要件を満たす場合に、最大3000万円の控除を受けることができます。
(1)昭和56年5月31日以前に建築されたこと
(2)区分所有建物登記がされている建物でないこと
(3)相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
(4)相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと
(5)譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること
(6)相続の開始があった日から3年目の年の12月31日までに売ること
(7)売却代金が1億円以下であること
参考事例では、昭和60年建築であることから、「昭和56年5月31日以前に建築されたこと」という要件を満たさず、この特例の適用はありません。
また、「譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること」を満たすかどうかも検討する必要もあります。
V 課税譲渡所得(課税対象額)の算出
では、参考事例における課税譲渡所得を算出してみましょう。
課税譲渡所得 = Ⅰ収入金額 -(Ⅱ取得費 + Ⅲ譲渡費用) -Ⅳ 特別控除額
であり、収入金額:2,000万円、取得費:100万円、譲渡費用:266万円、特別控除額:0円ですから、課税所得金額は、1,634万円となります。
5.譲渡所得税率
(1)譲渡所得税率
譲渡所得税率は、原則として所有期間に応じて算出されます。
所有期間が短期の場合:
居住用・非居住用を問わず、39.63%(所得税30.63% 住民税 9%)
所有期間が長期の場合:
原則:20.315%(所得税15.315% 住民税 5%)
ただし、「10年超所有軽減税率の特例の適用」がある場合に限り、
→14.21%(所得税10.21%・住民税4%)
※10年超所有軽減税率の特例
マイホームを売ったときの特例が利用できるような場面で、かつ所有期間が10年を超えるものについては税率が軽減される可能性があります。この特例は3000万円特別控除の特例と併せて適用が可能です。
(2)長期譲渡所得or短期譲渡所得
所有期間の短期or長期は、譲渡した年の1月1日現在において、所有期間が5年以下か、5年を超えるかにより判断します。
※ 「所有期間」とは、土地や建物の取得の日から引き続き所有していた期間をいいます。この場合、相続や贈与により取得したものは、原則として、被相続人や贈与者の取得した日から計算することになっていいます。
参考事例では、Aさんの親が不動産を取得したのは昭和60年ですから、当然所有期間は長期になります。もっとも、Aさんは当該不動産に居住することなく売却していますから、10年超所有軽減税率の特例は適用されません。
したがって、参考事例の税率は20.315%(所得税15.315%、住民税 5%)となります。
6.総括
「3.譲渡所得税の計算式」から、
譲渡所得税額 = 4.課税譲渡所得 × 5.税率(所得税・住民税)
「4.課税譲渡所得(課税対象額)の算出」から、
課税譲渡所得 = 1634万円
「5.譲渡所得税率」から、
税率(所得税・住民税) = 20.315%。
以上より、 参考事例における譲渡所得税額は、331万9471円となります。
譲渡所得税の説明はいかがでしたでしょうか。
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相続担当弁護士
村上 和也
プロフィール
同志社大学卒。平成20年より事務所開設し、守口市・門真市を中心に大阪で相続に関する相談多数。遺言・遺産分割・遺留分・遺言執行・事業承継・成年後見など。
弁護士からのメッセージ
遺言作成や遺産分割協議を数多く手掛けてきており,危急時遺言の作成実績もある数少ない法律事務所です。
ささいなことでも結構ですので,お早めにお問い合わせください。