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企業法務

未払残業代の請求をされた案件の解決事例

2020年10月5日|企業法務, 解決事例

1.事案の概要

 依頼者は,経営者の方で,退職した従業員より未払残業代の請求をされている方でした。
 退職した従業員には既に弁護士が就いており,依頼者はその弁護士と交渉をしていましたが,決裂し,ご来所頂いた際には労働審判を申し立てられているという状況でした。
 相手方は,本人が作成したメモに基づき,残業時間を主張していましたが,相手方の作業量に比して,過大な残業時間の主張がなされているという点が事案の特徴としてありました。

2.事案の分析及び反論

(1)残業時間の実態について
 弊所で事案分析を行い,相手方の主張の根拠となっているメモについて信用性が無いという点を主張していくこととしました。
 具体的には,①相手方は残業内容として書類作成等を主張していましたが,実際に相手方が作成した書類等を証拠として提出し,相手方が主張する業務時間は客観的な作業量に比して不相当に長い時間であること,②メモの作成を開始した時期が,相手方が会社の退職を決めた後であったため,相手方が残業代請求のための資料にするため作成したものとして,相手方の恣意が大きく混在していること,③本来なら勤務時間中に十分終了するはずの業務も残業に含まれていること等を指摘して,相手方の作成したメモが現実の労働時間を反映したものではなく,信用性が無いと主張しました。
 また,補充的に,相手方の日々の業務の問題点も指摘することで,相手方が主張する残業時間に労働の実態が伴っていないことも主張しました。

(2)労働審判手続の展開
 労働審判手続の特色としましては,原則として3回以内の期日において審理が終結するという点が挙げられます。そのため,申立を受けた使用者側としましては,第1回期日の前に原則として主張を記載した答弁書と証拠を全て提出しなければなりません。
 そこで,当方としては,上記主張を入れた答弁書及びそれを根拠づける証拠を提出し,第1回期日に臨みました。
 当方から充実した答弁書及び証拠を提出していた結果,裁判所に当方と同様の心証を抱いてもらうことに成功しました。
 そこで,第1期日時点で,裁判所より相手方の請求金額を8割強減額した金額での和解を実現することができました。

3.まとめ

 労働審判が申し立てられた際には,第1回期日については,申立てがされた日から40日以内に指定され,通常,指定された第1回期日の1週間前までに上記答弁書と証拠の提出が求められます。
 このように,使用者としては,反論内容をまとめた答弁書及び証拠の提出までに30日程度しか余裕がないため,多忙な経営者の方が多こうした労使紛争に自ら対応することは困難だと思います。
 そこで,本件のような事案を含め,労使紛争でお困りの場合には,是非,守口門真総合法律事務所に御相談ください。



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民法改正 ~瑕疵担保責任から契約不適合責任へ~

2020年06月29日|不動産, 企業法務, 弁護士コラム, 相続

1 瑕疵担保責任の見直し

平成29年5月26日,民法の一部を改正する法律が成立し(同年6月2日公布),一部の規定を除き,令和2年(2020年)4月1日から施行されています。

民法改正により,売買契約における瑕疵担保責任の規定は大幅に見直されましたので,以下,主な変更点をご説明致します。

2 「瑕疵」から「契約不適合」へ

改正民法においては,現行民法の「瑕疵」という文言は使われなくなり,「引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」との文言に変わりました。これは,「瑕疵」が物理的瑕疵だけではなく心理的瑕疵も含む幅広い概念であることを踏まえたもので,従前の解釈を積極的に変更するものではありません。

瑕疵の存否は,契約の趣旨を踏まえて目的物が有するべき品質,性状等を確定した上で,引き渡された目的物があるべき品質に適合しているかの判断によります。

3 民法改正による主な変更点

(1)対象が特定物に限られないことに

改正前民法においては,瑕疵担保責任の対象は特定物に限られるものとされていましたが,民法改正により,特定物であろうと,不特定物であろうと,契約不適合責任が適用されることになりました。

(2)原始的瑕疵に限られないことに

改正前民法においては,瑕疵担保責任における「瑕疵」とは,原始的瑕疵(契約時点までに発生した瑕疵)に限られていましたが,民法改正により,契約履行時までに瑕疵が発生した場合には,契約不適合責任を負うことになりました。

(3)買主側の法的手段

改正前民法においては,瑕疵担保責任によって買主が責任追及できる手段は,契約目的を達成できない場合の「解除」と損害賠償だけでしたが,民法改正により,追完請求及び代金減額請求が可能になりました。以下,簡単に説明致します。

ア 買主の追完請求権

(ア)買主の追完請求権に関する規定

 改正前民法においては,瑕疵担保責任が「原始的」瑕疵がある場合の規定であったことから,追完請求権の規定はありませんでした。

売主は,売買の目的となった特定物を現状のまま引き渡せば足り,特定物に不具合があったとしても,売主はなすべき給付を履行している以上,買主は追完を求めることはできないとされていたからです。

 しかし,改正民法においては,瑕疵担保責任を債務不履行責任の特則と位置付ける立場から,買主の追完請求権に関する規定が設けられています。

(イ)追完請求権の要件

 買主は,売主の帰責性の有無を問わず,追完請求権を行使することが可能になりました。目的物が種類物又は中古車等の代替可能な特定物であれば,修理や代替物の取得に多大な費用が掛かるなどの事情がない限り,買主の追完請求権が認められます。

 もっとも,売主の追完義務が履行不能になっている場合には,追完は事実上不可能ですから,追完請求権を行使することはできません。

 但し,契約不適合が買主の責任による場合,買主は追完請求権を行使することができません。

(ウ)追完方法の選択

 追完方法については,目的物の修補,代替物の引渡し,不足分の引渡しと定められており,追完方法は一次的には買主の選択に委ねられています。

 但し,売主の選択する追完方法が買主に不相当な負担を課すものでない場合,売主は,買主の選択とは異なる方法で追完することができます。

イ 買主の代金減額請求権

 現行民法では,数量不足及び権利の瑕疵の一部についてのみ,買主の代金減額請求権が定められていましたが,民法改正によって,買主は,物・権利いずれの契約不適合があった場合でも,売主の帰責性を問わず,代金減額請求が可能になりました。

 代金減額請求権は,契約の一部解除と同様の機能を営むため,代金減額請求を行うには,原則として,先に相当の期間を定めて追完を催告し,当該期間内に追完がないことが必要です。但し,①追完が不能な場合,②売主が追完を拒絶する意思を明確に示した時,③定期行為について売主が追完をせずに時期を経過したとき,④その他催告をしても追完の見込みがないことが明らかな場合は,追完不要とされています。

 契約不適合が買主の責任による場合,代金減額請求ができない点は,追完請求権の場合と同様です。

ウ 解除権及び損害賠償請求権

(ア)解除権

 現行民法では,解除権の要件として,5632項及び565条の場合,①残存する部分のみであれば買主が買受けなかったこと及び②買主の善意が,566条及び570条では,ⓐ契約目的を達成することができないこと及びⓑ買主の善意が規定されています。

 もっとも,民法改正によって,現行民法の条文は全て削除され,買主の解除権発生の要件は,債務不履行の一般原則に委ねられました。

したがって,売主は,買主の解除に対しては,契約不適合が軽微であることを主張して,解除の効力を争っていくことになります。なお,契約不適合が軽微であることの主張・立証責任は売主の負担となります。

 また,買主は,①売主の追完義務が履行不能であるかまたは履行の追完を拒絶する意思を明確に示しており,残存部分のみでは契約目的を達成できないとき,②その他追完の催告をしても契約目的を達するに足りる追完を受ける見込みがないときなどには,売主に対して無催告解除を行うことが可能です。

(イ)損害賠償請求権

 改正民法では,損害賠償請求権の要件・効果は債務不履行の一般原則に委ねられているため,要件としては売主の帰責事由が必要になり,効果としては履行利益の賠償まで認められることになります。すなわち,契約不適合が存在する場合であっても,それが契約及び取引の社会通念に照らして売主の帰責性によるものではない場合,売主は免責されることになります。

 なお,改正民法では,「数量」の不適合の場合,一般の消滅時効によって規律されることになります。これは,数量の不適合は,売主にとって比較的容易に判断できるため,売主の期待を保護する必要性に乏しいからとされています。

(4)担保責任の期間制限

目的物の種類・品質の契約不適合の場合,買主は,契約不適合を知ってから1年以内に不適合を通知しなければ,権利行使ができないものとされています。

現行民法では,「契約の解除又は損害賠償の請求」という権利の行使を1年以内にする必要があったのに対し,民法改正によって,「不適合の事実の通知」に緩和されました。また,売主が目的物を引き渡す際に,不適合の事実について悪意・重過失であった場合,買主は同期間経過後も失権しません。

なお,改正民法では,「数量」の不適合の場合,一般の消滅時効によって規律されることになります。これは,数量の不適合は,売主にとって比較的容易に判断できるため,売主の期待を保護する必要性に乏しいからとされています。

 

【その他の法改正に関する記事】

相続法改正について(弁護士コラム)

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報

2020年04月28日|企業法務, 借金問題, 弁護士コラム

新型コロナウイルスの感染者数は,増加の一途を辿り,現段階で感染拡大が終息する見通しがない状況にあります。このような状況において,中小企業の皆様が直面する法律問題に対応する必要が生じております。
もっとも,新型コロナウイルスに関する情報があふれており,適切な情報にたどり着けない方もあるかもしれません。
そこで,今回は,中小企業等の事業者の方に役立つ主な情報をまとめてお伝えしたいと思います。なお,以下は作成時点の情報であって,時々刻々と更新されるものでありますので,ご了承ください。

1 資金繰りに不安を感じている事業者の方(貸付・保証)

・新型コロナウイルス感染症特別貸付
日本政策金融公庫や商工中金より貸し付けを受けることができます。
融資対象は,最近1カ月の売上高が前年等の同期と比較して5%以上減少した方です。
当初3年間は,利子補給で金利負担が実質的に無利子となる制度です。
既に受けた債務の返済等の心配に対しては,最長5年の据置期間があります。

・セーフティネット保証
民間金融機関から融資を受ける際に,信用保証協会から保証を受けることができます。最大2.8億円の保証をうけることができます。

資金繰りに関するお問い合わせは,
中小企業 金融・給付金相談窓口TEL0570-783183
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/shien-flyer.pdf(PDFファイル)
経済産業省リーフレット表 経済産業省リーフレット裏

2 持続化給付金

感染拡大により特に大きな影響を受けている事業者に対し,事業の継続を支え,再起の糧とするための,給付金の支給です。
支給対象は,新型コロナウイルス感染症の影響により,売上が前年同月比で50%以上減少している方です。
給付額は,法人が200万円,個人事業者が100万円で,昨年1年間の売り上げからの減少分を上限としています。
令和2年度補正予算案が成立した翌日から申請を受け付けるようです。

相談は中小企業 金融・給付金相談窓口TEL0570-783183
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin.pdf(PDFファイル)
持続加給付金1 持続加給付金2

持続加給付金3 持続加給付金4

3 雇用調整助成金(雇用の維持,休業手当)

雇用調整助成金は,経済上の理由により,事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が,雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。
平時においてもある制度ですが,新型コロナウイルス感染症につき,特例措置が実施されております。
特例措置として,緊急対応期間中の4月1日から6月30日までの間,対象事業主は,全業種とされ,生産指標要件が緩和されて1カ月5%以上低下となっております。
そのほか,雇用保険被保険者でない労働者の休業も助成金の対象に含めたり,助成率も拡大しています。
(令和2年4月25日更新情報)休業手当を労働基準法上の基準(60%)を超える金額支払った場合には,当該超える部分につき100%助成されたり,都道府県からの休業要請を受けて休業している場合には,休業手当全体を100%助成されたりします。

 

問い合わせは,お近くの公共職業安定所(ハローワーク)へ。
https://www.mhlw.go.jp/content/000620879.pdf(PDFファイル)
特例拡充1 特例拡充2

特例拡充3 特例拡充4

4 債務の返済に関して

・新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール
新型コロナウイルス感染症の影響を受け,既往債務の支払いに悩む中小企業のために,各都道府県の中小企業再生支援協議会が,返済猶予の要請を行い,リスケジュール計画を創設して,負担軽減を図っています。

・金融庁の金融機関に対する要請
金融庁は,金融機関に対し,既往債務について,事業者の状況を丁寧にフォローアップするとともに,元本金利を含めた返済猶予などの条件変更について,迅速かつ柔軟に対応すること等を要請しています。

・国土交通庁の不動産関連団体に対する要請
国土交通省は,不動産関連団体に対し,新型コロナウイルス感染症の影響により,賃料の支払いが困難なテナントに対しては,賃料の支払いの猶予に応じるなど,柔軟な措置の実施を検討するよう要請しています。

以上のように,債務の返済については,関係各所におかれて,柔軟な対応が期待されております。

5 破産

以上のように種々の政策によって事業活動を支える手立てがなされているところではありますが,万策尽きて事業活動を停止することもあるかもしれません。そうすると最終的には破産という手段で清算することとなります。
報道によれば,新型コロナウイルス感染症に関連する倒産が,日本国内でも増加しており,今後も増えていくことが予想されます。
もっとも,本来,倒産しなくてもいい事業者が情報不足を原因に事業継続をあきらめてしまうこともあるかもしれません。これは,築いた企業価値を喪失させることとなりますので,社会全体の損失となります。
守口門真総合法律事務所では,社会や政策の情勢をリアルタイムに調査し,適切な情報をもとに適切な助言をしております。
新型コロナウイルス感染症による影響を受けている事業者の方は,ご相談ください。

 

 

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会社の通常清算の解決事例

2020年03月2日|企業法務, 解決事例

枚方市に事務所を置く,とある株式会社から、通常清算の御依頼を受けて,守口門真総合法律事務所において,遂行させていただいた事例を御紹介します。

御依頼のきっかけは,代表取締役が死亡したが,会社の後継者がいないためでした。

1,遺産分割協議による株式承継者の決定

まず,代表取締役の遺族(配偶者妻・子)による遺産分割協議により,配偶者妻が,株式を含む全遺産を相続により承継することになりました。そして,その遺産分割協議に基づいて,①遺産預金を解約して配偶者妻が取得し,②団体信用生命保険の適用により住宅ローン完済扱いとなった遺産不動産につき,配偶者妻への名義変更(相続登記),③遺産不動産に設定されていた抵当権の抹消登記等が実施されました。これらの手続は,守口門真総合法律事務所に御依頼いただく前に代理人に就任していた司法書士により実行されました。

2,株式承継者による新代表取締役及び清算人への就任

その後,遺産分割協議により遺産全株式を取得した配偶者妻からの依頼で,守口門真総合法律事務所において,配偶者妻を新取締役(新代表取締役)に選任する株主総会決議等をし,各就任手続を経て,各選任登記をしました。

そのうえで,会社を解散する株主総会決議(※)をして解散登記をし,併せて代表清算人の選任登記をしました。

 

※「普通決議」ではなく「特別決議」(議決権を行使可能な株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,かつ,出席した当該株主の議決権の3分の2以上の多数でもってなす決議 会社法第309条2項)。

 

そして,守口門真総合法律事務所の弁護士が,清算人から,清算業務の依頼を受けて,清算手続を進めていきました。

なお,この会社は債務超過ではなかったので,通常清算(裁判所の監督なしに、清算人によって行われる会社の解散手続)を選択しました。

3,清算業務の遂行

(1)事業停止・現状の把握

弁護士は,会社の従業員に対し,事業を停止する指示を出しました。また,会社の決算書を確保し,会社の現状を把握しました。

特に,貸借対照表を吟味し,債権債務関係や換価すべき財産を確認しました。

(2)未収債権の回収等

まず,未回収の請負報酬債権がありましたので,弁護士において回収しました。

次に,保険の解約手続をして,解約返戻金を取得したり,車両を売却して換価したりました。

賃借事務所については原状回復をしないといけませんので,不要な動産を処分したり,必要な動産(重要書類等)については新代表取締役の自宅に搬入しました。

係争中の請負報酬請求事件(債務者側)もありましたが,弁護士が相手方と交渉し,債権債務ゼロで和解することができました。

(3)従業員の解雇手続

解散することにより事業を停止する訳ですから,従業員も解雇する必要があります。

そこで,解雇予告通知を出し,1か月あまりの予告期間を設定し,その間,清算手続の補助をしてもらいました。

同時に,協力社労士に依頼して,健康保険・厚生年金・雇用保険などの各種社会保険,最後の給与・退職所得計算,離職票作成等の処理をしてもらい,従業員の今後の身分保障に努めました。

また,当該従業員のために,中小企業退職金共済(いわゆる「中退共」)にも加入していましたので,退職金の支給手続もしました。

(4)その他

会社は不動産事業もしており,宅建の免許も保有していましたので,宅建協会や不動産協会を退会する手続をしました。

(5)債権届出の公告及び催告

会社に対して債権を保有する債権者に対し,債権を届け出るよう,公告しました。

(6)債務の弁済

債権者が特定できた段階で,債権者に対して弁済しました。

4,残余財産の分配

未収債権の回収・車両の換価・債務の弁済などを経て,会社に一定の財産が残っていました(「残余財産」といいます)。

通常清算のときの「残余財産の分配」は、株主の保有株式数に応じて按分しますが,本件では,配偶者妻が全株式を遺産分割協議により取得しましたので,同人に全額を分配しました。

これで,通常清算における清算事務は終了しました。

なお,「残余財産の分配額」から「設立時の出資額」の差額が,利益となり,課税対象となります。そこで,協力税理士に事情を説明し,確定申告時に正しく申告できるお手伝いもさせていただきました。

5,その他の業務

清算事務が終了しましたので,決算報告書を作成して、株主総会に報告をし,株主総会での承認手続をしました。

これにて清算事務の結了です。

上記株主総会による決算報告の承認時から2週間以内に,清算登記をしました。これにより,通常清算の手続を完全に終えることができました。

 

 

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事業承継について―会社の10年後の将来像について語り合える後継者候補はいますか。

2020年02月10日|企業法務, 弁護士コラム

1 「人手不足」関連倒産

2020年1月,東京商工リサーチは,2019年の企業の倒産状況につき,「人手不足」関連倒産は426件(前年比10.0%増)で,調査開始以来最多を記録したことを発表しました(http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200109_01.html)。「人手不足」関連とは,代表者や幹部役員の死亡等による「後継者難」(270件。構成比63.3%)をはじめとし,「求人難」(78件。構成比18.3%),「従業員退職」(44件。構成比10.3%),「人件費高騰」(34件。構成比7.9%)と続いています。

「人手不足」関連倒産の増加傾向をみると,事業の継続ができるにもかかわらず,後継者等の人材を確保することができずに,廃業を選択せざるを得ない状況が増加している実態があります。廃業となると,これまでの事業運営で培ってきた貴重な経営資源が失われてしまうことになります。

2 中小企業の経営者の約4割が65歳以上

そして,現在,中小企業の経営者のうち,65歳以上の経営者が全体の約4割を占めており,今後数年で,多くの中小企業が,事業承継にあたって,後継者問題に直面するといって過言ではありません。

取引先とのつながりや経営に関する様々なノウハウ,従業員などの貴重な経営資源を守りながら,中小企業が活躍していくためには将来を見据えた計画的な事業運営が欠かせません。中小企業が今後も事業を継続・発展させていくために,次世代にスムーズに「事業承継」を進めることが必要となってきています。

スムーズな事業承継のためには,自社株式の取得に伴う相続税や贈与税の負担,経営権の分散リスク,事業承継後の資金繰りなどの様々な課題に対応することが求められます。

3 事業承継に伴う経営権の分散リスク

会社の経営権を安定させるためには,後継者に集中的に自社株式を承継することが望ましいですが,何らの対策をしなかった場合,遺産分割協議の結果やほかの相続人からの遺留分減殺の請求によって,自社株式の保有者が分散してしまうリスクがあります。

4 経営権分散を防止する事前の対策

① 先代経営者から後継者へ生前贈与

自社株式の分散を防止するための最もシンプルな方法は,経営者が生きているうちに後継者へ承継を進めておくことです。

自社株式の生前贈与には,贈与税が課税されますが,暦年課税制度や,相続時精算課税制度,事業承継税制を活用することで,贈与税の負担軽減を図ることが可能です。

 

② 安定株主(役員・従業員持株会)の導入

後継者が総ての株式を取得することが税負担の問題で困難な場合,他の者に承継させることとなります。このような場合には,基本的に現経営者の経営方針に賛同し,長期間にわたって保有を継続してくれる株主(安定株主)を導入する方法があります。候補としては,役員・従業員持株会などが挙げられます。

 

③ 遺言の作成

先代経営者が遺言を残しておくことは,相続争いや遺産分割のトラブルを回避することに有効です。先代経営者の意思に適った相続を期待することができます。

遺言を作成するには,法律上の要件を満たしている必要があるほか,相続させる対象を特定する必要があります。

 

④ 遺留分減殺請求を踏まえた生前対策

遺言を作成していても,後継者となる相続人だけにすべての財産を相続させて,それ以外の相続人には一切相続させないというような遺言の場合には,後継者以外の相続人から遺留分減殺請求がなされる可能性があります。遺言を作成する際には,遺留分減殺請求の権利を有する相続人に配慮する必要があります。

また,遺留分減殺請求にかかる紛争防止のため,中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律では,遺留分に関する民法の特例が設けられています。

後継者を含めた推定相続人全員の合意の上で,先代経営者から後継者に贈与等された自社株式について,一定の要件を満たしていることを条件に,遺留分の算定の基礎となる相続財産から除外したり,株式の評価額を固定したりするなどの取り決めが可能となっています。これにより,後継者が確実に自社株式を承継することができます。

 

⑤ 種類株式の発行

経営者の相続財産の大部分を株式が占める場合,後継者に株式を集中させると,他の相続人から遺留分の主張が行われる可能性があります。おこで,後継者には,普通株式を相続させ,他の相続人には無議決権株式を相続させることで,遺留分減殺請求による株式(議決権)分散リスクの低減を図ることができます。

5 その他の対策

事前の対策には,上記のほかに,信託の活用や,持株会社の設立といった対策もあります。

株式などが分散してしまった後の事後的な対策としては,自社株買いに関するみなし配当の特例を活用して,会社法上の制度として相続人等に対する売渡請求,特別支配株主による株主等売渡請求などの手段をとることもできます。株主の把握のために名義株・所在不明株主の整理などを行う必要があるかもしれません。

6 事業承継の相談は守口門真総合法律事務所へ

守口門真総合法律事務所では,事業承継に関するご相談を承っております。上記のとおり,事業承継は専門的知識を要し,また一朝一夕で完成するものではなく,長期的な視点で検討する必要があります。

弁護士は,事業承継を検討するにあたり,経営権の分散リスクに対する事前の対策をとることができます。対策をとる事前の相談から,事前対策の実施,事業承継を実施するに際しての法的問題点の抽出,解消につき支援することができます。また,中小企業や経営者の代理人として,事業承継を進めるにあたり,金融機関や株主,従業員等の利害関係者への説明・説得を行い,円滑な事業承継を進める役割を担います。

守口門真総合法律事務所では,協力税理士がおりますので,事業承継に関するご相談についてワンストップにてお受けすることができます。

 

本テーマの副表題「―会社の10年後の将来像について語り合える後継者候補はいますか。」について,候補者候補がいる方もいない方も,ぜひ守口門真総合法律事務所へご相談ください。

 

事業継承や契約書作成などの企業法務のご相談やお問合せはぜひお任せください。
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