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相続

兄弟姉妹が親の生前に遺産相続の放棄を希望した場合の対応

2020年12月24日|弁護士コラム, 相続

守口門真総合法律事務所の弁護士村上和也です。
兄弟姉妹が「もし親が亡くなったら財産はいらない」と言っている場合の対応について、よくご相談を受けますので、本日はこの点の説明をさせていただきます。

兄弟姉妹の中には「親からの支援を十分受けてきたので、もし親が亡くなったら、財産はいらないよ」と言う方もいるかもしれません。
その場合、他の兄弟姉妹はどのように対応すべきなのでしょうか。
「実際に親が亡くなった場合に、言っていたことが変わるのでは?」と心配になる場合もあるでしょう。
そこで、その約束を確定させる方法はあるのか、考えてみましょう。

遺留分は放棄できる

被相続人の死後、推定相続人は遺留分の権利(遺留分減殺請求権)を放棄することができます。
これを「遺留分の放棄」といい、相続の開始前でも後でも可能です。
よって、このような場合には、遺留分を放棄してもらうことで、約束を確定することが可能です。

ただ、相続開始前に遺留分を放棄する場合には、他の相続人から遺留分を放棄するよう強制されている可能性もあるため、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法1043条)のでご注意ください。
少々、難しい手続ですので、弁護士に相談されることをおすすめします。

もっとも、家庭裁判所から許可を得られたとしても、あくまで相続人からの遺留分減殺請求権がなくなるだけであって、通常の相続権まで放棄することにはなりません。
確実にその相続人を被相続人の相続から除外させるためには、被相続人が遺言書を作成する際、親から支援を受けてきたその推定相続人に相続させない内容の遺言書を作成しておく必要があります。
このような遺言書を作成しておかないと、遺留分の放棄はできても、遺産分けしない、という本来の目的を達成できなくなります。

なお、遺留分を放棄するということは、その代襲者も遺留分を放棄したものとみなされます。
よって、ある兄弟姉妹が遺留分を放棄すれば、その子(遺言者からみれば孫 「代襲者」といいます)も相続することはできません。

相続放棄・相続分の放棄・相続分なきことの証明

「相続放棄」は、相続開始前に主張しても効力はありませんし、相続放棄を宣言する趣旨の書面を作成しても法的には認められません。
同じく「相続分の放棄」または「相続分の譲渡」も、相続開始後でなければ法的な効果はありません。
これらの制度は相続ありきで成り立つものだからです。
相続開始後、「相続分の放棄・債務」をしても債務は相続するので、債務の相続を免れたい場合は相続放棄をしましょう。

不動産を相続したときの登記において、「相続分がないことの証明書」というような書面が作成されることがありますが、あまりおすすめしません。
相続放棄の手続きも遺産分割手続きも不要で登記手続きができる便利な制度ですが、実態と異なるケースが非常に多く、相続でトラブルを招きかねないためです。

具体的な対応策

このように、相続開始前に推定相続人を相続から除外するのは制度上、難しいところがあります。
わざわざ家庭裁判所に申立てまでして、遺留分を放棄してくれるケースは多くないと思われるからです。

そこで対応策としては、遺産不要と主張している兄弟姉妹に、次のような書面を書いてもらうと良いでしょう。
例えば「私は学生時代に、海外への留学費用として○○円援助してもらったので、遺産相続にかかわる一切の権利を放棄します」などです。
その際、生前贈与の内容はより具体的である必要があります。

この手続きによって、遺産は不要と主張している兄弟姉妹が、確実に相続権が喪失するわけではありません。
しかし、相続が開始してからその兄弟姉妹の気が変わり、やはり「相続したい」と主張したとしても、相続前に作成した上記のような書面が証拠となり、生前贈与(内容次第では特別受益)があったことの証明になります。
遺産分割協議ではこの書面が決定的となり、満足のいく結果になることでしょう。

まとめ

親が生きている段階で、遺産相続の放棄を兄弟姉妹が申し出た場合でも、法的に相続放棄はできません。
生前に「親の財産はいらない」という意思をはっきり示したい場合は、「遺留分の放棄」が可能です。

ただし「遺留分の放棄」は「相続人からの遺留分減殺請求権がなくなる」というだけですので、通常の相続権まで放棄することにはなりません。
そのため、兄弟姉妹に遺産相続の権利を放棄する書面(具体的な生前贈与の内容)を書いてもらうことで、遺産分割協議時に有効な証明書となります。

確実に相続から除外させるためには、親の遺言書に相続させない旨を書いてもらう方法もありますので、ご検討ください。

弁護士村上和也のプロフィール
所属:大阪弁護士会
重点取扱分野:遺言・相続(遺産分割・遺留分・遺言執行)・成年後見
講演歴:①「今日から始める相続対策」(終活セミナーでの講演)
    ②「相続・遺言・遺留分・金銭管理・成年後見」
     (地域包括支援センター家族介護教室での講演)
    ③「金銭管理・成年後見・個人情報保護」(認知症サポーター養成講座での講演)

弁護士からの一言
・早い段階で御相談いただくほうが良い解決につながることが多いですから、ささいなことでも結構ですので、お早めにお問い合わせください。
・相続問題は、遺産分割調停・遺留分減殺請求訴訟等、様々な紛争を扱う、紛争処理のプロである弁護士に御相談ください。

遺言・相続・成年後見のことでお悩みの場合、まずは守口門真総合法律事務所までお問い合わせ相談ください。初回は無料で御相談可能です。

守口門真総合法律事務所(京阪守口市駅西出口すぐ)
TEL:06-6997-7171
守口市・門真市の遺言・相続や成年後見(財産管理)に関する詳細はこちら(当事務所HP)

父親が亡くなった時に遺産相続で気を付けたいこと

2020年12月15日|弁護士コラム, 後見, 相続

守口門真総合法律事務所の弁護士村上和也です。
片親が亡くなった場合の相続につき、よく御相談を受けますので、本日はこの点の解説をさせていただきます。

両親のうち父親が先に亡くなった場合、母親と子どもが法定相続人です。
ただし、遺産総額によっては相続税がかかりますので、後述のように「母親に全財産を相続してもらって納税を回避する」という選択をする方もあるかもしれません。

今回は、このような事例の際に気を付けたいことについて考えていきます。

配偶者控除の利用と節税

相続税を納付するだけの原資が不足しているときに、物納できる制度もありますが、要件が厳しいため原則として物納は認められません。

そこで、手持ちに納税原資が無く、かつ、相続財産に現金・預貯金が少ない場合には、相続税の納付に困ってしまいます。その場合、母親に相続を集中させると、母親の配偶者控除という税法上の特例により、大幅に税額を軽減できるため、配偶者控除による節税はよく使われます。

ところが、母親に相続財産を集中させたことで、今度は母親が亡くなると夫婦の財産が一気に子へ相続されてしまいます。相続税は累進課税方式で、課税対象が高額なほど税率も高くなって税額が多額になりますので、長期的には子どもも少しずつ相続して、適宜、相続税を納付しておいたほうが節税になる可能性もあります。

父親が先に亡くなった場合は、配偶者控除の特例を活用するかどうか、相続税の納税額も考えて検討したほうが良いと思います。

相続を先送りすると後でトラブルになる

相続争いを避けたいために、母親に全てを相続させて問題を起こさないようにすることも少なくありません。

しかしながら、遺産分けを話し合うことができない不仲なきょうだい間では、母親が亡くなったときにいずれ相続争い(「争族」「争続」)が起こるのは必至です。

とりあえず採った回避策が後で大きな争いにならないようにするには、母親だけに相続させるのではなく、母親が生きている間に母親の関与(口添え)のもと、きょうだいで良く話し合う必要があります。

残された親をどうするか

母親が健康な間は親の存在が大きく、きょうだいは争わずに過ごすでしょう。それでも、配偶者を失った親は気持ちが沈んで病気を患うかもしれませんし、病気をしなくても高齢になると介護の問題もあります。

現在は親と同居する子世代が少なくなっていますので、両親のどちらかが亡くなった場合、残された片親の面倒をどうするのかも問題になることが多いです。
例えば父の死をきっかけに弟が母親の面倒を見ることになったとき、弟の妻は不満をもらし、兄は弟が母親の財産を使ってしまわないか疑念を持つようになってしまうケースもあるかもしれません。

母親に認知症の傾向が現れた場合は、「自分に都合のよい遺言書になるように、母親を言いくるめているのでは?」と、きょうだい同士で疑念を持つケースもあり、親の奪い合いが始まることもあります。

母親と離れて暮らす兄が、同居している弟に無断で、財産の減少(流出・散逸)を防ぐために、成年後見選任を申し立てる可能性もあるでしょう。

認知症の親を被後見人とする成年後見選任申立ては、既に相続争いが始まっていることを意味します(相続争いの前哨戦という表現で説明しています)。

ここからもし兄(または兄が依頼した弁護士)が成年後見人に選任されると弟は嫌な気持ちになりますし、母親も気がしっかりしているときに、成年後見を申し立てた兄に不満を感じるかもしれないのです。

片親が亡くなったときこそ相続が重要

元々スムーズな話し合いができないきょうだいは、問題を先送りすることで感情のもつれが激しくなってしまい、母親まで亡くなったときには遺産分割協議が紛糾します。

したがって、片親が亡くなって相続が発生したタイミングこそ、残された親の介護も含めて、きょうだいが、生存している親を含めて、十分に遺産分割協議をして遺産承継することが適切であると考えます。

弁護士村上和也のプロフィール
所属:大阪弁護士会
重点取扱分野:遺言・相続(遺産分割・遺留分・遺言執行)・成年後見
講演歴:①「今日から始める相続対策」(終活セミナーでの講演)
    ②「相続・遺言・遺留分・金銭管理・成年後見」
     (地域包括支援センター家族介護教室での講演)
    ③「金銭管理・成年後見・個人情報保護」(認知症サポーター養成講座での講演)
<弁護士からの一言>
・早い段階で御相談いただくほうが良い解決につながることが多いですから,ささいなことでも結構ですので,お早めにお問い合わせください。
・相続問題は,遺産分割調停・遺留分減殺請求訴訟等,様々な紛争を扱う,紛争処理のプロである弁護士に御相談ください。

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借地上の建物の名義変更について

2020年11月30日|不動産, 弁護士コラム, 相続

1 はじめに

 土地を借りて,その上に自宅等の建物を持っている場合,地主との関係で様々な法律問題が発生します。ここでは,特に借地上の建物の名義変更をする場合について,御説明したいと思います。

2 借地上の建物を贈与・売却等する場合

(1)民法上の規定
 そもそも他人の土地上に建物を所有する場合,その土地の利用権(これを「借地権」といいます)が必要となります。そして,借地上の建物を第三者に贈与したり売却等したりする場合,それに伴い借地権の譲渡も生じることになります。
 この点について,民法は「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」(612条1項)と定めており,借地上の建物を他人に譲渡する場合には,借地権設定者,ここでいう地主の承諾が必要となります。
 そして,仮に地主の承諾が無いまま借地上の建物を譲渡した場合は,土地の賃貸借契約自体を解除されてしまう恐れがあります(同条2項)。
 そこで,借地上の建物を譲渡する際に,地主に承諾を得ようとしたが,全く地主が応じてくれなかったり,いわゆる承諾料(名義書換料)の関係で話がまとまらなかったりする場合があります。
 借地権の譲渡には地主の許可が必要という原則を貫くとすると,このような場合に,建物所有者が自由に譲渡することができないという不都合が生じます。

(2)借地借家法の規定
 そこで借地借家法は、借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、第三者(譲受人)が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず、地主が賃借権譲渡を承諾しないときには、裁判所は、借地権者の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができると定めました(借地借家法19条1項前段)。
 つまり,裁判所が、地主に代わって許可をすれば、建物所有者は借地権を譲渡できることとしたわけです。
 裁判所が許可を与える際には,賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮して許可の可否が決定されます(同条2項)。

(3)土地の賃借権譲渡の許可申立について
 上記のとおり,裁判所から許可を得るためには,借地権者が申立てを行う必要があります。この申立は「土地の賃借権譲渡の許可申立て」と呼ばれます(裁判所HP https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minji-section22/minji-section22-mokuji-1/index.html もご参照ください)。
 ここで,「土地の賃借権譲渡の許可申立て」はいわゆる借地非訟事件と呼ばれ,一般的な「訴訟」事件とは異なり,「非訟」事件に分類されます。非訟事件は,裁判所が後見的に介入して処理することを特徴とする事件類型をいい,裁判所は当事者の主張に拘束されず,判断をすることが出来ます。そのため,柔軟な解決がなされることが期待されます。
 なお,この申立ては,建物の譲渡前にしなければならないとされています。「建物の譲渡前」とは,建物の所有権移転登記および建物の引渡しのいずれもがなされる前であると解されています。

(4)地主の介入権
 「土地の賃借権譲渡の許可申立て」において,第三者が賃借権を取得すると地主に不利益となるような場合,勿論裁判所は許可をしません。
 もっとも,裁判所が許可するような場合であっても、地主としては、第三者が賃借人となるよりは、自らが建物と借地権を買い取って、土地の賃貸借関係を消滅させた方がよいと考えることもあります。
 そこで,借地借家法は、このような地主の希望に配慮し、地主自らが建物と賃借権の譲渡を受ける旨申し立てた場合には、相当の対価を定めて、地主に対して建物と賃借権を譲渡することを命じることができることにしています(借地借家法19条3項)。こうした地主が自らに建物と賃借権を譲渡するよう裁判所に申立てをすることができる権利を介入権といっています。
 条文上は,あくまで「これを命ずることができる。」と規定してありますが,裁判例では,地主から譲渡の申立てがあったときには、原則として裁判所は譲渡を命ずる裁判をしなければならないと判断したものもあります(東京高裁昭和52年6月9日決定)。

3 借地上建物を相続する場合

 例えば,相続で亡くなった父親の借地上の建物の名義変更をする場合,贈与・売却等する場合と同様に,地主の承諾は必要でしょうか。
 結論としては不要です。というのも,相続とは、被相続人の権利が相続人に対して当然に承継されるものであり、借地権の相続においても、相続という性質上、借地権という権利が当然に相続人に受け継がれるためです。
 したがって,地主の承諾は不要ですし,承諾が必要ない以上,いわゆる承諾料など地主から請求されても支払う必要はありません。

4 最後に

 今回は,借地上の建物の名義変更について御説明させて頂きましたが,不動産に関する法律問題は多岐にわたり,ご本人様の対応では難しい場面が多いことかと思います。
 何か,不動産に関することでご不安なことがございましたら,お早めに守口門真総合法律事務所までご相談ください。

不動産に関するトラブルのご相談やお問合せはぜひお任せください!
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遺留分減殺請求の解決事例

2020年09月4日|相続, 解決事例

1.事案の概要

 相談者は,守口市の方で,令和2年2月に親戚の方が亡くなられましたが,その方が生前に公正証書遺言を作成していたという事案でした。相談者は,公正証書遺言において,遺言執行者に指定されており,かつ遺産の受遺者になっていました。

 しかし,相談者が遺言執行者の立場で戸籍を調査したところ,被相続人に子がいることが発覚し,その対応についての相談でした。
公正証書遺言により,遺産については,生前被相続人の面倒を看ていた相談者及びもう一人の親戚に相続させるという内容で,法定相続人である被相続人の子は一切遺産を受け取ることができないという状況でした。

 もっとも,このような場合でも,法定相続人に対する最低限度の保障として,遺産の中から遺留分に相当する財産を取得する権利(「遺留分減殺請求権」といいます)が認められています。本件において被相続人の子に認められる遺留分割合は遺産の2分の1でした。

2.被相続人の子による遺留分減殺請求に対する対応

(1)被相続人の子に対する遺言執行者就任通知及び遺産目録の作成
 相談者は遺言執行者に就任していたため,法定相続人に対し,遺言執行者に就任した旨の通知及び公正証書遺言に基づき遺言を執行する必要があります。そこで,まず遺言執行者就任通知及び遺産目録の作成で依頼を受けました。

 また,法定相続人からの遺留分減殺請求が予想されたところ,遺留分減殺請求権については,1年の消滅時効が定められていますが,その起算点は,相続が始まる時、または減殺すべき贈与または遺贈があることを知った時とされています(民法1048条)。そこで,上記通知には,法定相続人の消滅時効を進行させるという狙いもありました。

(2)遺留分減殺請求の交渉
 もっとも,その後,法定相続人にも弁護士が就任し,遺留分減殺請求を行使する旨の通知がなされました。

 そこで,相談者及び相談者と同じく受遺者となっていた親戚の方より依頼を受け,法定相続人との交渉を始めました。

 交渉においては,被相続人と法定相続人は40年以上疎遠であったこと,法定相続人に代わり相談者らが長年にわたり被相続人の身上監護や財産管理等を行い貢献してきたこと,今後相談者が被相続人の遺産の処分等の実働すること等を資料を添付して具体的に指摘し,形式的に認められる遺留分侵害額よりも減額されるべきことを主張しました。
 その結果,形式的に認められる遺留分侵害額から約25%以上の減額に成功しました。

3.結語

 本件では,相談者も,当初の金額より相談者に有利な金額で解決をすることができたため,ご満足いただきました。

 もし,相続や遺産分割でお困りの方は,お早めに,守口門真総合法律事務所にお問い合わせいただければと思います。

相続のことでお悩みの場合,まずは守口門真総合法律事務所までご相談ください。
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子どもがいない夫婦の場合の相続

2020年08月26日|弁護士コラム, 相続

守口門真総合法律事務所の弁護士村上和也です。本日は,定期的にご相談いただく事例として「子どもがいない夫婦の一方が死亡した場合の相続」について,ご説明いたします。

一般的に相続と言えば、親から子へ財産が受け継がれるイメージですが、近年は従来の家族観に縛られることなく、自らの意思で「子どもを持たない」という選択をする夫婦も珍しくありません。実際、皆さんの周りでも、子どもがいない、夫婦だけが家族、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

では、子どもがいない夫婦の場合の相続はどうなるのでしょうか。

配偶者がすべて相続すると思いがちですが、実はそうではありません。どのような人に相続される可能性があるかパターンごとに見ていきましょう。

配偶者と被相続人の親が相続人になる場合

結論から言いますと、基本的に子どもがいない夫婦で一方が亡くなった場合には、「配偶者と被相続人の父母(または祖父母)」が相続人になります。

※父母が他界していて、祖父母は健在の場合は、祖父母が相続人になります。
夫が亡くなった場合で相続分を考えると、妻が2/3、夫の親が1/3です。
父・母とも健在の場合は、父1/6、母1/6と、夫婦二人で1/3を分けることになります。

夫の父母には遺留分(遺産の一定割合を相続人に保証する制度)が認められるため、仮に「妻にすべての財産を譲り渡す」との遺言書があったとしても、6分の1の相続財産が保証されます。

妻と夫の父母の関係性が良好であれば問題ないのですが、子どもがいなければ接点も少なくなりがちです。 また夫の父母が高齢で認知症であったり、熟年離婚をしていて父母間の仲が険悪だったりと、妻と夫の父母の遺産分割協議では何かと苦労することも多いため、事前の心構えも必要になってくると思われます。

配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続人になる場合

被相続人の父母・祖父母がすでに死亡している場合には、「配偶者と被相続人の兄弟姉妹」が相続人になります。
夫が亡くなった場合、相続分は妻が3/4、弟姉妹が1/4です。
兄弟姉妹全員で1/4ですので、複数人いる場合は1/4を兄弟姉妹間で分けることになります。

また、夫の兄弟姉妹が亡くなっている場合には、その子供である甥や姪に相続権が引き継がれることになります(代襲相続・民法第887条)。

子どもがいない夫婦の場合、妻にとって夫の兄弟姉妹・甥や姪とは会う機会も少なく疎遠になっていることも多いでしょう。
そのような距離感で夫の残した遺産分割協議を行うのは煩わしく気が重いはずです。もっとも、兄弟姉妹・甥や姪への相続は、父母の場合と異なり遺留分が認められていません。そのため、仮に「妻にすべての財産を譲り渡す」との遺言書があれば、文字通り妻にのみ相続権が認められることになり、兄弟姉妹や甥姪に相続されることはありません。

子供がいない夫婦で、配偶者のみに相続をしたい場合は、遺言書を作成しておくことが不可欠となります。

配偶者のみが相続人になる場合

亡くなった人の両親・祖父母・兄弟姉妹およびその子供もいない場合、相続人は配偶者のみになります。

また、亡くなった人に兄弟姉妹やその子供(甥・姪)が存在しても、「遺産はすべて配偶者に渡す」という遺言書を残している場合、配偶者のみが相続人となります。

事前にすべき具体策

子どもがいない夫婦だからといって、自動的に妻のみに相続権が認められるわけではありません。現実問題として、自宅や預貯金が夫名義になっている場合には、妻は預金の解約や自宅の名義変更のために相続人全員の同意を得ることが必要になります。
夫の兄弟姉妹など相続権利者の署名・捺印(実印)・印鑑証明書まで求められるため、かなりの手間と時間がかかってしまうのです。

このような面倒を防ぐために、子どもがいない夫婦の場合には「自分が死んだ時、全財産を配偶者に相続させる」という内容の遺言書を残しておきましょう。遺言書があるだけで、煩わしい遺産分割協議を回避できますし、残された財産の名義変更なども容易となります。

遺言書作成のポイント

子どものいない夫婦は、事前にしっかり話し合って、どちらが先に亡くなってもいいように、同時に遺言書を作成することをおすすめします。

遺言書の種類は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つです。
中でも、自分で作成しやすいのは自筆証書遺言で、思い立った時に作成できます。

ただし、作成には下記のルールがありますので、守るようにしてください。

・遺言書の内容はすべて自筆で書く(動画・音声・印字などは無効です)。

・内容は明確なものにし、曖昧な表現をしない。

・日付の明記、署名・押印(できれば実印)をする。

・訂正がある場合は決められた方式で行う。

・遺言書は封筒に入れて、しっかり封印する。

遺言書はルールを守ることが大切で、内容については厳しい規定はありません。
そのため、遺族に対して感謝の思いなども書くことができます。

遺言書は大変重要なものになりますので、夫婦で話し合い、同時に作成することをおすすめします。
より信頼性の高い遺言書にするためには、公正証書遺言の作成も視野に入れても良いでしょう。

「遺言書を作成したいけれど、何から始めたらいいか分からない」という方は、弁護士にご相談ください。

弁護士村上和也のプロフィール
所属:大阪弁護士会
重点取扱分野:遺言・相続(遺産分割・遺留分・遺言執行)・成年後見
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