平成32年4月1日より,改正民法の施行が予定されており,賃貸借契約に関しても影響が出てきます。不動産賃貸借契約など,皆様の居住や事業の基盤になる契約についても,契約書を見直す必要があります。不動産業者だけでなく,地主,家主の方も,民法改正への備えは十分でしょうか。
そこで,今回は,賃貸借契約に関しての民法改正の概要をご紹介します。
①賃貸借契約期間の伸長
賃貸借契約期間の上限が現在の20年から,50年に伸長されました(改正民法604条)。
この改正の背景には,駐車場やゴルフ場,太陽光発電事業用の土地賃貸借契約において,長期にわたる契約期間の定めするニーズがありました。これらのニーズに対応する契約が可能となりました。
②不動産賃貸借の対抗力,賃貸人の地位に移転に関する規定
1 判例法理を明文化する形で新設されました。
不動産の賃貸借は,これを登記したときは,その不動産について物件を取得した者その他の第三者に対抗することができる(改正民法605条)。
不動産の賃貸借が対抗することができる場合,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その譲受人に移転する(改正民法605条の2第1項)。
賃貸不動産の譲渡により賃貸人たる地位が移転した場合における費用所管に係る債務及び敷金返還に係る債務については,譲受人やその承継人に承継される(改正民法605条の2第4項)。
以上の規律は,従前より判例法理により処理されてきました。
2 これに加えて,今回の民法改正で新たに,不動産の賃貸人の地位を旧所有者に留保することができるようになりました。
これまでは,実務上,賃貸不動産を信託する等の場面において賃貸人たる地位を旧所有者に留保するニーズがありましたが,賃貸不動産に入居している個別の賃借人の同意を得る必要があったり,賃貸管理委託などの契約では対応できなかったりしました。
改正民法において,不動産の賃貸人の地位を旧所有者に留保するための要件は,ⅰ不動産の譲渡人及び譲受人が,賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意をすること,ⅱ不動産の譲渡人及び譲受人がその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をすること,となっております。
この場合,新所有者が賃貸人,旧所有者が賃借人,従前賃貸借の賃借人が転借人という転貸借の法律関係となります。この場合に,譲渡人と譲受人間の賃貸借が終了したときには,賃借人を保護するため,譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は,譲受人やその承継人に当然に移転することとされました(改正民法605条の2第2項後段)。
賃貸不動産を売買する場合などには,賃貸人の地位の留保を用いれば,個別の賃借人の同意をえることなく,従前の賃貸借契約の関係を残したまま,賃貸不動産を売買することができるようになります。
③不動産の賃借人による妨害排除等請求権の規定
不動産の賃借人による妨害排除等請求権の規定が新設されました。
これは,対抗要件を備えた不動産の賃借人が,第三者に対して,占有の妨害を停止する請求や占有の返還を求める請求を行うことができるという,判例法理を明文化したものです(改正民法605条の4)。
④賃借物の一部または全部が使用収益できなくなった場合の規定
賃貸物の一部の使用収益ができなくなった場合について,賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは,賃料は使用収益できなくなった部分の割合に応じて減額されるという規定が設けられました(改正民法611条1項)。現行民法では,賃料減額につき一部滅失の場合のみを規定していますが,一部滅失に限らず賃貸物の一部の使用収益をすることができなくなった場合一般を対象として賃料の減額を認めるとともに,賃借人からの請求を待たずに当然に賃料が減額されることとなりました。賃料は,賃借人が賃貸目的物を使用収益することができる状態におかれていることの対価として発生するものですので,一部の使用収益をすることができなくなった場合には,当然に賃料も使用収益することができない部分の割合に応じて発生しないという理解に基づくものです。
賃借物の一部が使用収益することができず,残存する部分のみでは賃借目的を達成不可能なときは,賃借人の解除権を認めました(改正民法611条2項)。
また,全部が使用収益できなくなった場合,賃貸借は終了するという規定が新設されました(改正民法616条の2)。
地震や台風などの災害や事故によって建物が一部損壊した場合には,これらの条項により賃料減額等が当然に認められることとなります。
⑤転貸借関係
適法な転貸借がなされた場合における賃貸人と転借人との法律関係について,現行法の内容を具体化し,判例法理を明文化する規定が設けられました(改正民法613条)。
前述の賃貸人たる地位の留保により,転貸借関係が増加することが想定されます。賃貸人と賃借人(転貸人),転借人との三者関係の法律関係となりますので,通常の賃貸借関係よりもトラブル発生の可能性は高まります。トラブル発生を回避するためには,契約書等を見直して,転貸借関係に備えることが必要です。
⑥賃貸借終了後の収去義務,原状回復義務
賃借人の収去義務,原状回復義務の内容を明確化する規定が設けられました(改正民法621条,622条が準用する599条)。
賃借人の収去義務については,ⅰ賃借人が賃借目的物を受け取った後にこれに附属させたものについては賃借人が収去義務を負う,ⅱ賃借目的物から分離することが出来ない物や分離するのに過分の費用を要する物については収去義務を負わない,とされました。
原状回復義務については,賃借目的物を受け取った後に生じた損傷については,その損傷を原状に回復する義務を負います。もっとも,賃借目的物に生じた通常損耗(通常の使用収益によって生じた賃借物の損耗)や賃借物の経年変化については,賃借人はこれを回復する義務を負わないとされています。また,賃借人の責めに帰することができない損傷についても,賃借人は原状回復義務を負わないとされます。
原状回復に関するトラブルは多いです。契約書に,原状回復範囲を明記するなどして,トラブルを回避することが重要となります。
⑦敷金
敷金に関する規定が新設されました(改正民法622条の2)。現行民法には,敷金に関する基本的な規定が設けられておりませんでした。
敷金の意義については,これまでの判例や一般的理解を基に,いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいうとされました。
敷金返還債務の発生時期につき,判例を明文化して,ⅰ賃貸借が終了し,かつ,賃貸物の返還を受けたとき,ⅱ賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき,とされました。
敷金の充当に関しては,敷金返還債務の発生のときに,受け取った敷金の額から賃貸借に基づく賃借人の賃貸人に対する金銭給付目的の債務の額を控除するものとされました。
敷金返還債務の発生前には,賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づく金銭給付目的の債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができるとされました。このとき,賃借人から賃貸人に対して,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することはできません。
敷金に関しては,これまで明文がなく種々の解釈がなされてきました。今後は,賃貸人と賃借人それぞれが理解をすることでトラブル発生を防止することになりますので,契約書において明記することが有効となります。
以上の民法改正は,平成32年4月1日施行されますので,これまでに契約書を見直し,民法改正に備える必要があるかと思います。
今回は,賃貸借に関しての民法改正の概要をお伝えしました。具体的な契約書チェックのご相談は,守口門真総合法律事務所までお問い合わせ頂きますようお願い致します。
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