契約書の書式例とチェックポイント
以下に、ビジネスシーンでよく用いられる代表的な契約書書式例をご紹介します。各書式例にはポイント解説をコメントで表示しています。ご参照ください。
(1)秘密保持契約書 (ひな形はこちら)
当事者間で営業秘密などの秘密情報をやり取りする場合に、当該情報が第三者に漏洩するのを防ぐために取り交わす契約書です。
(2)金銭消費貸借契約書 (ひな形はこちら)
お金を貸し借りする際の基本的事項や、弁済期が守られなかった場合の責任追求方法について定める契約書です。
(3)売買契約書 (ひな形はこちら)
ものを買いたい、または売りたいというときに必要となってくる契約が、売買契約です。売買を継続的に行いたい場合には、最初に継続的取引契約が交わされる場合もありますが、この売買契約の派生型です。
(4)業務提携契約書 (ひな形はこちら)
会社同士がお互いに得意な分野で提携したり、業務の一部を外部に委託するときに締結する契約書です。民法上の売買・請負・委任などの性格をあわせ持つ、継続的契約といえます。
法的な拘束力を持たない規定があるものも見受けられます。
各書式例はごく一般的なビジネスシーンを想定して作成されています。これ以外の契約例、または、契約書に盛り込みたいけれど記載方法が判らないなど、ご不明な点は、お気軽に弁護士ご相談ください。
契約書作成の方法
契約書を作成する方法には、書式を用いて自社内で作成する場合、書式あるいは書式集を利用すれば、時間を節約できます。もちろん書式は万能ではありませんので、以下の事項に気を付ける必要があります。
1)最新の書式を入手する
取引先から契約書に調印するよう求められたが、記載されている内容で不利益がないかよく分からない・・・。
法令は日々改正されるものです。商法だけを例にとっても、平成10年から平成20年まで9回も改正されており、平成18年には会社法が新たに作られています。
このような状況では、書式も常に最新のものにアップデートさせておかなければ、現在の法令をふまえていない契約書を作成してしまうことになりかねません。
2)最も近い内容の書式を選ぶ
契約書の書式集は多数出版されており、それらの中には100や200もの契約書の書式が収録されているものもあります。
その中で、自分が作成したい契約書にもっとも近い内容の書式を選ばなければなりません。
書式には契約書の題名が記載されているので、一見すると容易なことであるようにも思えますが、実際には例えば金銭消費貸借契約書の書式を見ても、貸金を一括で返済することが前提となっているもの、分割で返済することが条件となっているもの、連帯保証人がいることが前提となっているもの、いないことが前提となっているもの、など同じ題名の契約書の中でも様々な種類のものがありますので、適切な内容の書式を選択する必要があります。
3)書式を修正する
契約の目的とその背景にある事実関係は千差万別であり、たとえ膨大な書式を持っていたとしても、貴社のケースにそのまま当てはまるような書式があるとは限りません。
そこで、書式を部分的に修正するという作業も必要な場合があります。
書式を修正する場合は、契約書の基本的な構造を理解していることが望ましいです。
契約書を弁護士に依頼するメリット
契約書作成を弁護士に依頼する場合、以下のメリットがあります。
(1)貴社の利益確保
契約は利害関係が対立する双方の当事者の法律関係について定めるものですので、当事者の力関係によっては一方当事者にとって有利なもの、あるいは不利なものもありえます。
しかし、契約書のひな型は双方の当事者にとって中立的な立場から作成されていますので、当事者の力関係を正確に反映できていない場合があります。
弁護士に契約書の作成を依頼した場合、当事者の関係も考慮に入れて契約書を作成できるので、より実態に沿った契約書を作成できます。例えば、貴社が相手方に対し契約書の原案を提示できる立場にある場合、貴社にとってなるべく有利となるような条項を盛り込むこともできます。
(2)特殊事情の反映・適切な修正
契約を締結する場合には、個々のケースに応じて様々な背景となる事情がありますが、当然のことながら契約書ひな形はそれらを考慮に入れていない場合が多いです。 弁護士が契約書を作成する場合は、背景となる特殊事情をヒアリングして契約書を作成しますので、より実態に即した契約書にすることができます。
(3)将来のトラブルを回避する
契約書のひな型は、例えば債務の履行方法について「当事者間の協議の上、決定する」と定めている場合がありますが、これは債務の履行方法には様々なものがあり、ひな型を作成した者が特定しきれないため、当事者に内容を埋めてほしいという意図で、あえてこのような形にしてあるものです。
しかし、ここをひな形のままにしておくと、将来紛争が生じた場合にトラブルになりかねません。
弁護士に契約書作成を依頼することにより、条項を極力明確化し、将来のトラブルを回避できます。
契約トラブルの対処法
契約が履行されない場合、下記の対処法が想定されます。
1) 内容証明郵便で請求する
内容証明郵便は、文書の内容と送達日付が公的に証明できるようになるので、当方の主張を相手方に伝達するのに最適な方法です。
相手方に何らかの回答をさせるようにプレッシャーをかける事が可能です。
判例や証拠文書を添付したいときは、書留郵便も利用します。
自社で内容証明を出すこともできますが、弁護士が弁護士名で内容証明を出すほうが効果的と言えます。
2) 通常訴訟を申し立てる
通常訴訟となりますと、弁護士に委任するのでなければ難しい場合が多いです。
通常訴訟で勝訴し、判決が出たらその判決をもとに相手方と交渉する方法もありますし、相手方がそれでも債務を履行しないのであれば、強制執行することになります。
3) 契約を解除する
相手方が債務を履行しなくとも、契約を解除しない限り、当方は相手方に対し債務を負い続けます。解除するためには相手方に帰責事由が必要であり、また、履行が可能であるが履行期を経過している場合は原則として相手方に履行を催告し、にもかかわらず相手方が催告期間内に履行しない場合に解除可能となります。
この解除の意思表示は、裁判とは無関係に内容証明郵便で行うこともできますし、裁判上で行うこともできます。
4) 相手方に損害賠償を請求する
相手方が債務を履行しない場合に、当方が損害を被る場合があります。
この場合、相手方に対し損害賠償を請求することができます。
この損害賠償は解除と共にすることができるため、契約を解除しつつ、損害賠償を請求することもできます。
なお、契約の解除と同じく、損害賠償の場合も相手方に帰責事由があることが原則として必要です。
契約トラブルについては、まずはお気軽に弁護士にご相談されることをお勧めします。
不動産売買契約で失敗しないポイント
不動産は重要な財産であるため、契約書を作成するのが一般であり、一般取引上は売買契約書を作成した時が契約締結の時となることが多いといえます。
以下には、不動産売買契約で失敗しないポイントを掲載しています。
個別の契約書については、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
(1) 重要事項説明とは
不動産を購入する場合、宅地建物取引業者(宅建業者)を通じて購入することが多いですが、宅建業者から土地建物を購入する場合、宅建業者の側で重要事項説明が必要とされています。
具体的には、その不動産に関する登記された権利の種類・内容などの法定の事項について説明が必要になります。
重要事項説明について宅建業者が事実と異なることを告げ、これを事実と誤認して契約者が契約の申し込み・承諾の意思表示をした場合は、売買契約を取り消すことができます。
(2) 登記簿を確認する
売主がその不動産を所有しているのか、所有しているとしても他の共有者がいるのではないか、抵当権などの制限物権が設定されているのか、を登記簿謄本で確認する必要があります。
(3)現地(不動産)を調査する
建物を買う場合、その建物が賃貸されていても建物の借家権は登記簿謄本には表示されません。
そこで、実際に建物を買った後に、その建物が賃貸されていたためにその建物を使用することができなかった、という不利益を被らないように、建物を実際に調査する必要があります。
(4)用途地域を確認する
土地を買ってその上に建物を建てようとする場合、建物の種類・建ぺい率・容積率・高さ制限などが法律により規制される場合があります。それが都市計画法上の用途地域です。
用途地域は、住居・商業・工業など市街地の大枠としての土地利用を定めるもので、第一種低層住居専用地域など12種類があります。
用地地域は、各地方自治体で販売している都市計画図で確認することができます。
(5)申込証拠金について
申込証拠金とは、マンションや建売住宅の分譲販売の際、購入希望者から販売業者に対し交付することのある金銭を言います。
申込証拠金は不動産取引実務の中で生じてきたものであり、法律上規定のあるものではありません。
そのため、申込証拠金の法的性格については争いがありますが、購入希望者の購入意思の確認と、当該希望者の申込み優先順位の確保を目的として預託される金銭であるとする考え方が有力です。
また、申込証拠金は売買契約成立前に交付されるものであるとするのが一般的です。
申込証拠金を交付する場合は、売主から預かり証の交付を受けましょう。
申込証拠金は、売買契約をキャンセルした場合、返還される場合が多いです。
(6)売買契約に際しての、手付の支払いについて
不動産売買契約を締結する場合は、不動産の重要性から契約の締結の際、手付を交付することが多く行われます。
手付はいわゆる解約手付と推定され、契約の相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付を放棄することによって契約が解除でき、売主は手付の倍額を支払うことによって契約解除ができます。
また、契約が解除された場合は互いに損害賠償請求ができません。これはあくまで法律上の推定ですから、当事者でこれと異なる取り決めを行うこともできます。
そこで、手付を交付する際は売買契約書内において手付の法的性質を明記する必要があります。
なお、宅建業者が売主となっている場合は、法律上、解約手付となります。
相手方が契約の履行に着手した場合は、手付によって解除することはできなくなります。
(7)購入した建物に欠陥(瑕疵)があった場合
従来は、民法上の請求として損害賠償請求および契約の目的を達成できない場合に契約を解除することができるにとどまっていました(いわゆる瑕疵担保責任)。
また、この瑕疵担保責任を追及できる期間は、瑕疵の存在を知ってから1年以内に限られていました。
しかし、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により、請求できる範囲が拡大しています。
具体的には、新築住宅の取得契約について、基本構造部分の瑕疵担保責任を、建物の完成引渡から10年間請求できるようになります。
瑕疵担保責任の内容も、損害賠償請求・解除だけではなく、修補請求ができるようになります。
ちなみに、品確法は平成12年4月1日以降に締結された新築住宅の取得契約(売買・請負)について適用されます。
(8)農地の売買に関する注意点
農地を売買する場合で、買主がその農地を農地として使用する場合は、農業委員会または都道府県知事の許可が必要となります。また、買主が農地を農地として使用しない場合も、原則として許可が必要となります。農地法の許可が必要な場合において、許可よりも先に売買契約を締結しても契約は有効ですが、土地所有権は許可がなければ移転しません。
そこで、農地を売買する場合は、契約書に「許可が得られなかった場合は、当然に契約を解除する」との条文を入れる必要があります。個別の契約書については、弁護士にご相談ください。
不動産賃貸契約で失敗しないポイント
以下には、不動産売買契約で失敗しないポイントを掲載しています。
個別の契約書については、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
(1)土地賃貸借契約の更新
土地賃貸借契約の期間が満了した場合、その契約を更新するか否かが問題となります。
更新には当事者の合意に基づいて更新される合意更新と、当事者の合意に基づかない法定更新があります。
1)合意更新
土地賃貸借契約は当事者の合意に基づいて更新でき、これを合意更新と言います。契約期間は当事者が定めなかった場合で借地借家法が適用される場合は、初回の更新ならば20年、2回目以降の更新ならば10年です。当事者が20年より長い賃貸期間を定めることもできます。
また、借地借家法が制定される以前の借地法が適用される場合は、堅固建物(石造り、土造り、煉瓦造りなど)の場合は30年、非堅固建物については20年です。
2)法定更新
借主が貸主に対し更新を請求し、建物が存在する場合は、貸主が遅滞なく異議を述べない限り従前と同じ内容で契約が更新されます。
また、借主が更新を請求しなくとも借主が土地の使用を継続し建物が存在する場合は、貸主が遅滞なく異議を述べない限り、やはり従前と同じ内容で契約が更新されます。
また、貸主の異議には正当事由がなければなりません。
(2)建物賃貸借契約の更新
土地賃貸借と同様に、合意による更新と法定更新があります。
1)建物賃貸借の合意更新
建物賃貸借を合意で更新した場合は、契約期間は最長で20年であり、1年未満の期間を定めた場合は期間を定めなかったものとみなされます。
契約期間を定めなかった場合やそのように見なされた場合は、解約申し入れの対象となります。
2)建物賃貸借の法定更新
当事者が期間満了の1年前から6か月前までに更新拒絶の意思表示をしなかった場合、または契約条件を変更しなければ更新しない旨の通知をしなかった場合は、従前と同じ内容で契約を更新したものと見なされます。
また、貸主から更新拒絶の通知がなされた場合であっても、借主が借家の使用を続けているのに、貸主が遅滞なく異議を述べなかった場合も同様です。
ただし、期間の定めがないものとされ、解約申し入れの対象となります。
なお、貸主の更新拒絶の通知には正当事由が必要とされます。
正当事由の内容については、土地賃貸借の更新拒絶と同じです。
(3)解約申し入れとは
建物賃貸借で、期間の定めがない場合または定めがないとみなされる場合は、当事者は双方とも申し入れによっていつでも建物賃貸借契約を終了させることができ、これを解約申し入れと言います。
ただし、貸主の側から解約申し入れをする場合には、正当事由が必要とされ、しかも賃貸借契約が終了するのは解約申し入れの日から6か月後です。
正当事由の内容については、土地賃貸借の更新拒絶と同じです。
(4)契約期間の途中での賃料の値上げ・値下げ
契約で定めた以上、賃料を契約の途中で一方的に値上げ・値下げできないのが原則です。
ただし、当事者で合意した場合は契約内容を変更できます。
また、裁判により賃料の値上げ・値下げをすることができる場合があります。
裁判で賃料を変更する場合、いきなり訴訟を提起することはできず、まずは調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。
調停で不調となった場合に訴訟を提起します。裁判になった場合、以下の事情を総合判断して賃料を値上げ・値下げするかを判断します。
1)土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減
2)土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動
3)近傍同種の建物の借賃の比較
(5)敷金の返還
敷金とは、不動産特に建物賃貸借の際、賃料その他賃貸借契約上の債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する停止条件付返還債務を伴う金銭のことを言います。
賃借人が賃貸人に賃料を支払わなかったり、建物の原状回復が必要となり賃借人がこれを負担する場合に、賃借人の負担額が差し引かれて、建物明け渡し時に返還されます。
建物の賃貸借においては契約で原状回復は賃借人の負担とされているのが一般的です。
どんなにきれいに使ったとしても、ルームクリーニング代金は負担させられるので、全額は戻ってこないことが多いです。ただ、返還金額が不当に低い場合は争うべきです。