今回は、2021年4月に成立した民法・不動産登記法等の改正法について、解説します(参考:法務省HPより「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」の概要)。
1.改正の背景
改正の背景には、所有者不明土地問題があります(過去の弁護士コラム「所有者不明土地問題」)。
近時、相続登記がされないこと等により、①不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地、又は、②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地、いわゆる『所有者不明土地』が多数発生しています(総面積は九州本土よりも大きいといわれます。)。
2.法改正の概要
今回の改正は、①所有者不明土地の発生予防と②所有者不明土地の利用の円滑化の両面から、民法や不動産登記法などを見直すものです。
(1)民法の改正
①共有制度の見直し
不明共有者がいる場合には,利用に関する共有者間の意思決定や持分の集約が困難となっていました。
そこで,共有物の利用の円滑化を図る仕組みとして,裁判所の関与の下で,不明共有者等に対して公告等をした上で,残りの共有者の同意で,共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度が創設されました。
また,裁判所の関与の下で,不明共有者の持分の価格に相当する金銭の供託によって,不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する仕組みが創設されました。
②相続制度の見直し
相続開始から10年を経過したときは,個別案件ごとに異なる具体的相続分による分割(寄与分や特別受益)の利益を消滅させ,画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う仕組みが創設されました。長期間放置された後の遺産分割では具体的相続分に関する証拠等が散逸し,共有状態の解消が困難であったからです。
法定相続分と異なる遺産分割を行うためには,相続開始から10年以内に行わなければならないこととなります。なお,施行日前の相続発生については,相続開始の時から10年を経過する時または改正法の施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時までの期間制限となります。
③財産管理制度の見直し
所有者不明土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度が創設されました。裁判所が選任した管理人は、裁判所の許可を得れば、所有者不明土地・建物を売却することができます。これにより、所有者不明土地・建物の管理が効率化・合理化することになります。
また、所有者不明土地・建物のみならず、管理不全土地・建物(例:ゴミ屋敷、廃墟)について、所有者が適切に管理せずこれを放置していることで他人の権利を侵害するおそれがある場合に、裁判所が管理人を選任することができる制度も創設されました。
④相隣関係規定の見直し
電気、ガスなどのライフラインを自己の土地に引き込むための設備を他人の土地に設置する権利を明確化し、隣地所有者不明状態にも対応できる仕組みが整備されました。
(2)不動産登記法の改正
不動産登記法の改正では、所有者不明土地をこれ以上発生させないために、相続登記・住所変更登記の申請義務化と手続の簡素化・合理化が導入されました。
問題の背景として、不動産の登記名義人と実際の所有者とが異なることがよくありました。そうすると、①登記名義人の相続人が分からないため、所有者の探索に時間と費用が掛かり用地買収等が妨げられることや、②登記名義人が死亡しているかどうかだけでも分かれば、事業用地を円滑に選定することができるとの指摘があることなどから、相続や住所変更などの情報を登記に反映すること、すなわち、登記を最新の状態にアップデートが問題解決のために重要になります。
そこで、今回の不動産登記法の改正では、以下が導入されました。
①相続登記・住所変更登記の申請義務化
②相続登記・住所変更登記の手続の簡素化・合理化
①相続登記・住所変更登記の申請義務化
不動産を取得した相続人に、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けました。正当な理由のない申請漏れには10万円以下の過料が科されます。どういった場合に正当な理由なしと判断されるかは、法務省が近い将来通達を出す予定です。
また、改正法では、不動産を所有する人について住所や氏名の変更があった場合、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付けることになりました。この場合も、正当な理由のない申請漏れには5万円以下の過料が科されることになります。
②相続登記・住所変更登記の手続の簡素化・合理化
ア 相続人申告登記(仮称)の新設
改正法では、相続登記の義務化と併せて、相続人が登記名義人の法定相続人である旨を申し出ることで、相続登記の申請義務を果たしたことにするという規定が設けられました。この相続人申告登記は、相続人一人ひとりが単独で申告することができ、添付書面も簡略化されているため、相続登記の申請義務を簡易に履行することが可能になります。
イ 死亡情報等の公示
登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から死亡等の情報を取得し、職権で登記に表示する仕組みが設けられました。これにより、登記で登記名義人の死亡の有無の確認が可能になります。
3 まとめ
所有者不明土地問題を背景にされた法改正ですが、一般の相続にも影響する形での法改正となっています。これまでは期間制限のなかった遺産分割など相続関係について、期間制限が設けられたことをはじめ新たな制度も設けられておりますので、長期間相続を放置していた方はご相談ください。
以上
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