守口門真総合法律事務所の弁護士村上和也です。
「遺贈する」と「相続させる」との違いにつき,御相談を受けることがありますので,本日は,この点につき解説を致します。
「遺贈する」と「相続させる」をしっかり使い分けましょう
遺言書の作成時に「遺贈する」「相続させる」という言葉をよく使います。「同じような意味だから、どちらを使っても問題無い」と思いがちですが、実は効果が異なります。どのように使い分けるべきか、チェックしておきましょう。
財産を誰に譲るかによって使い分けが必要
まず、財産を法定相続人に譲るならば、「遺贈する」「相続させる」どちらも可能です。しかし、法定相続人以外のケースは「遺贈する」が適切で、「相続させる」は間違いです。仮に間違えても、「遺贈する」と置き換えて捉えることとなり(遺言に関する有効解釈)大きな問題は起こらないでしょうが、正確な表現を用いるようにしたいですね。
「相続させる」という遺言の意味合い
「全て」または「一部」の財産を特定の相続人に「相続させる」という内容の遺言は、基本的に遺産分割の方法を設定したことになります。
分かりやすく言うと、相続が始まった瞬間にその遺産は遺産分割された扱いになり、所有権が移転するという事になります。それが不動産であれば、その相続人が一人で所有権移転登記を実行する事ができ、仮に遺言執行者が存在していたとしても、そのサポートはいりません。
また、移転登記をしないうちにほかの共同相続人が不動産を第三者に譲っていても、その第三者は権利のない人から権利を受け取った事になるので、第三者を対象にして相続人は土地の返還(登記の抹消)を求める事が可能です。
ただし「長女に財産の3分の1を相続させる」など、全てではなく割合を「相続させる」と記載したパターンでは、どの財産が長女に帰属しているのかが分からないので、相続分の指定という扱いになり、上記の効果はありません。そして、さらなる遺産分割手続が必須となります。
「遺贈する」という遺言の意味合い
一方「遺贈する」と記したケースでは、(相続が始まった瞬間にその遺産は遺産分割された扱いになる上記の場合と異なり)遺言者の遺贈義務を相続人全員が引き継ぐ運びになります。例えば不動産のケースでは、相続人全員ないし遺言執行者からの申請が必要となり、それによって移転登記手続を行う必要があります。
また、受遺者である相続人が登記を実行しなければ、第三者に所有者であると主張する事は不可能とされています(ただし、遺言執行者の執行を妨げるものは無効)。そしてやや特殊な事例ですが、農地の不動産を「遺贈する」としたケース(特定遺贈)に関しては、農業委員会または都道府県知事の許可が必要です。該当しそうな方はこれらの事もおさえておきましょう。
代襲相続が起きた際の扱い
「遺贈する」と「相続させる」の違いで注意すべきなのは、遺言で遺産を得る予定の人が、遺言者よりも先に死去した際の代襲相続の扱いです。
これが遺贈であれば、受贈者が先に死去した際は、遺贈の効力が生じない事が明らかですが、「相続させる」という内容の遺言では、遺言者に代襲相続させる意向があったとみるべき特別な事情がなければ代襲は行われない、という判例の立場です。
差異はわずかと言えますが、いずれの言葉を使うにしても、遺言者よりも早く財産を渡すべき人間が亡くなった場合に代襲相続するかどうかを、分かるように記載しておくことが大切です。
なぜ「相続させる」という表現がよく使われてきたのか
「相続させる」という表現がよく使われてきたのは、昔はその方が移転登記の登録免許税が安かったためです。しかし、今では相続人への移転登記にかかる税金は「遺贈する」でも「相続させる」でも「1000分の4」と同じです。
しかし、法定相続人に遺産を渡すケースで、特に遺贈にこだわらないのであれば、遺言執行者やほかの共同相続人が関わる必要のない「相続させる」の方を使う事を推奨します。
ちなみに、信託銀行などの金融機関に遺言書の作成を依頼した場合「遺贈する」という表現にこだわられることがあるようです。それは、遺言執行者として必ず相続の手続に関与することで、遺言執行者としての報酬を確保することが目的と考えられます。
弁護士村上和也のプロフィール
所属:大阪弁護士会
重点取扱分野:遺言・相続(遺産分割・遺留分・遺言執行)・成年後見
講演歴:①「今日から始める相続対策」(終活セミナーでの講演)
②「相続・遺言・遺留分・金銭管理・成年後見」
(地域包括支援センター家族介護教室での講演)
③「金銭管理・成年後見・個人情報保護」(認知症サポーター養成講座での講演)
弁護士からの一言
・早い段階で御相談いただくほうが良い解決につながることが多いですから,ささいなことでも結構ですので,お早めにお問い合わせください。
・相続問題は,遺産分割調停・遺留分減殺請求訴訟等,様々な紛争を扱う,紛争処理のプロである弁護士に御相談ください。
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