賃金仮払いの仮処分とは
解雇された労働者が,解雇の無効を争う場合,訴訟ですと1年程度かかる場合があります。
実際に判決によって解雇が無効であるということが確定すれば,無効とされた期間について,遡って賃金が支払われることとなりますが,確定するまでの間は,解雇が無効であるかどうかが争われている以上,使用者から賃金が支払われることはありません。
そうなると,解雇が無効であるとの判決が確定するまでの間,労働者は賃金が得られず,生活に困ることとなります。
そこで,判決がでるまで,解雇した使用者に対して仮に賃金を支払うことを強制する手続を,賃金仮払いの仮処分と言います。
賃金仮払いの仮処分が認められた場合,使用者は,解雇した労働者に対して,毎月一定額の賃金を支払う必要が生じます。
仮払いを免れるには
賃金の仮払いが認められるためには,労働者の固定収入の有無・貯金など資産の有無・同居家族の収入の有無・家計の収支の状況等に基づいて,「債権者(ここでは労働者を意味します)に生じる著しい損害…を避けるため…必要とするとき」(民事保全法23条2項)という要件を満たす必要があります。
そのため,労働者が資産を保有していた,近親者の収入で生活をしていた,正社員として雇用された,といった事情がある場合であれば,仮払いを免れる余地があります。
他方で,労働者が短期のアルバイトで生計を立てているということや雇用保険を受領しているというだけといった事情では,仮処分の必要性がないとまではいえないと考えられます。
したがって,使用者としては,労働者の主張に対して,労働者の現在の生活状況や収入状況について説明を求め,必要性がないということを反論すべきです。
また,労働者とその家族の生計を維持するに必要な限度の額に仮払金は限定される傾向があります。
そこで,使用者としては,現実の生活費を主張し,労働者の反論を待って更に再反論するなどして,裁判所に具体的な生活費の限度の仮払金に止めるよう求めるべきです。
仮処分の手続きの概要
(1)仮処分の申立がなされると,裁判所において審尋期日が指定され,裁判所による審理が行われます。
裁判所の審理については,一般的には審尋期日を2~4回,2~3週間程度の間隔で開催することが多いです。
審尋期日において,裁判所から和解を勧められる場合も多いので,本案訴訟をした場合のメリット及びデメリットを検討した上で,和解に応じるかどうかを判断すべきです。
(2)仮払いが認められる期間について,申立以前の過去の賃金については,それまで生活ができているということから保全の必要性が否定され,認められないことが一般的です。
将来分については,無期限に認められるのではなく,仮処分の決定から1年程度,又は解雇無効訴訟の第1審判決言渡しまでと限定されることが多いです。
仮の地位を定める仮処分
同じ仮処分として,「労働者の労働契約上の権利を有する地位」を定める仮処分の申立てが行われる場合もあります。
これは,解雇された労働者が,従業員たる地位そのものを保全するために行う仮処分です。
しかし,①「労働者の労働契約上の権利を有する地位」の中核は賃金請求権であり,賃金の支払が受けられないこと以外に解雇による債権者に生ずる著しい損害は想定できないこと,②賃金の支払が受けられないという損害については,上記賃金仮払いの仮処分により回避することが可能であることから,保全の必要性が否定され,仮処分が認められないことが一般的です。
まとめ
このように,賃金仮払いの仮処分が労働者から申し立てられた場合には,審尋期日の対応が必要となり,その際には民事保全法が定める要件に沿った反論をしていく必要がございます。
そのため,仮処分への対応も,弁護士にご相談されることをお勧めいたします。