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保証会社に明け渡しがあったとみなす等の権限を付与する条項の適法性

2021年03月|不動産, 弁護士コラム

 以前,「保証会社に解除権を付与する条項の適法性」というコラムで取り上げた裁判の,控訴審判決がなされました(大阪高裁令和3年3月5日)。

 高等裁判所では,「保証会社に解除権を付与する条項の適法性」に関する判断は維持され,これに加え,原審が違法とした「保証会社に明け渡しがあったとみなす等の権限を付与する条項」についても,適法であると判断しました。

 最高裁判所への上告が予定されているようですが,今回の判断が維持されれば,入居者が行方不明となった場合などの明渡し業務に関して,不動産賃貸業界への影響は大きいためご紹介いたします。

1 問題となった条項

第18条(賃借人の建物明渡協力義務)
2項 保証会社は,下記のいずれかの事由が存するときは,賃借人が明示的に異議を述べない限り,これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる。
2号 賃借人が賃料等の支払いを2カ月以上怠り,保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡が取れない状況の下,電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ,かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するとき

以上のほか,本件建物の明渡しがあったものとみなされた場合には,本件建物内に残置された動産の搬出・保管に異議を述べないこと,搬出の日から1か月内に引き取らないものについて所有権を放棄し,処分に異議を述べないこと,保管料として月額1万円(税別)及び搬出・処分に要する費用の支払い義務を認める条項が問題とされました。

2 上記条項の解釈について

高等裁判所は,上記の第18条2項2号の条項を,4つの要件に整理し,「①賃料等の支払いを2カ月以上怠り,②保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡が取れない状況の下,③電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から賃借物件を相当期間利用していないものと認められ,かつ,④賃借物件と再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するとき」としました。

 この4要件のうち①から③を満たす場合には,賃借人としては,既に賃借物件を住居として使用しておらず,かつ,その意思を失っている蓋然性が極めて高いということができます。そして,④の要件にあたるのは,賃借人が賃借物件についての占有の意思を放棄している場合といえます。①から③の要件だけでなく,④の要件を備えることによって,賃借人が賃借物件についての占有する意思を最終的かつ確定的に放棄したものを認められ,賃借人の占有権は消滅したものと考えられます。

 このようなことから,4要件を満たすことにより,賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合において,賃借人が明示的に異議を述べない限り,保証会社に対し,賃借物件の明渡しがあったものとみなすなどの権限を付与するものと解釈されました。

3 上記条項の適法性

 消費者契約法10条は,権利の制限をする条項であって,消費者の利益を一方的に害するものは,無効とするとされています。

 高等裁判所は,上記条項につき,権利の制限をする条項であることを認定しましたが,消費者の利益を一方的に害するものには該当しないとして,有効と判断しました。賃借人が受ける不利益が賃借物件内の動産類を搬出・保管ないし処分されうるという点に限られ,むしろ現実の明渡しをする債務を免れ,将来の賃料等の更なる支払義務を免れるという利益を受ける状況にあること,また,賃借人が明示的に異議を述べさえすれば明渡しなどの権限行使を阻止することができることなどから,賃借人の利益を一方的に害するものということはできないことが理由です。

4 最後に

 今回の高等裁判所の判決について,一部報道では,「「追い出し条項」は適法」などとされていますが,以上のとおり,4要件を満たした場合に限定され,占有権が消滅したといえる場合にのみ有効な条項であります。かつて問題となったような,賃料滞納等を理由として賃借人の占有を一方的に排除する,いわゆる「追い出し条項」とは全く異なるとされています。

 そして,今回の事件は適格消費者団体からの差止請求訴訟という特色から,その審理対象は条項の定めのみであって,運用の場面において賃借人に対する違法な自力救済に該当する危険性を否定することができないとも指摘しています。

 今回の判決によれば,条項を定めておけば,賃借人が行方不明となった場合で賃借人の占有権が消滅したといえるときには,賃貸借契約の解除だけでなく,物件内の残置動産の搬出・保管ないし処分などの権限を付与することができることとなり,民事訴訟の提起,判決取得,強制執行の法的手続を経ることなく,明渡しを実現することができるようになります。

 過去には,賃貸借契約自体に,後見開始等を理由とする契約解除条項や明渡等代理条項などを付した特約について裁判で争われたことがあります(大阪高判平成25年10月17日消費者法ニュース98号283頁)。この事件では,後見開始等を理由とする契約解除条項が無効とされましたが,明渡等代理条項は,裁判係属中に条項が改訂されてしまいましたので,その有効性について判断されておりませんでした。

 消費者契約法の適用場面であって,賃貸人,保証会社と賃借人との利益衡量が必要な条項でありますので,賃貸借契約に条項の追加を検討されている方は,弁護士にご相談ください。

関連コラム:https://murakami-law.org/1127/
「保証会社に解除権を付与する条項の適法性」もぜひご覧ください。

<弁護士プロフィール>

弁護士 喜多啓公(きたひろゆき)
所属:大阪弁護士会
不動産関係では,宅建協会顧問の法律事務所にて勤務し,多数の賃料回収案件,建物明渡案件,土地明渡案件,賃料増減額請求,不動産契約トラブル案件の取り扱い経験があります。
賃貸不動産経営管理士の資格も保有しています。

講演歴
①不動産会社従業員への講義(不動産に関連する民法改正)
②不動産オーナーへの賃貸経営セミナー(テーマ「2020年民法改正が不動産賃貸借経営に及ぼす影響とは!?」)
③門真市の地域生涯学習のための市民大学での講義(テーマ「身近な暮らしの法律」)

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