はじめに:善意のつもりが“疑われる”
親の介護や生活費の管理を担うのは、多くの場合、子どものうちの誰か一人です。
ところが、その「善意の行動」が思わぬ誤解を生むことがあります。
「母のお金で母の施設費を払っていただけなのに、相続のときに“使い込み”だと言われた。」
このようなご相談は、私たち弁護士のもとに頻繁に寄せられます。
家族間の信頼が揺らぐ原因は、“管理の不透明さ”にあります。
この記事では、こうしたトラブルを未然に防ぐために、
弁護士の立場から実践的な注意点をお伝えします。
なぜ“使い込み”と疑われるのか
「使い込み」とは、本人の財産を他の人が勝手に使用していると疑われる状態を指します。
実際に不正をしていなくても、状況次第で誤解を招くことがあります。
特に次のような場合、後で説明がつかなくなりがちです。
- 出金記録が不十分:いつ・何のためにお金を使ったか分からない
- 通帳をまとめて管理している:複数口座を一つに集約した結果、「移しただけ」が誤解される
つまり、「何をしているのか分からない」こと自体が、トラブルの原因になるのです。
また、「介護で助かっている」側と「自分だけが介護を負担している」側で、かなりの温度差があることも、トラブルの原因だと思われます。
実際に起きたトラブルの例
事例①:介護費の支払いが“私的流用”と疑われた
長男が母の介護施設の費用を立て替えながら、母名義の口座から現金を引き出していました。
しかし領収書を保管しておらず、弟に「何に使ったのか説明できない」と言われてしまいました。
→ 裁判所の調停では、「支出の裏付けが取れない」と判断され、長男が一部返還を求められる結果に。
事例②:通帳をまとめたら“勝手に移した”と誤解された
高齢の父の複数の口座をまとめた次女。
「管理を簡単にしたかっただけ」ですが、他の兄弟から「何のために?」と疑われ、関係が悪化しました。
トラブルを防ぐ3つのポイント
弁護士として現場を見ていると、“たったこれだけ”の工夫で誤解が防げたというケースが多くあります。
① 記録を残す
どんな小さな出金でも、「目的・日付・金額」を簡単にメモしておきましょう。
領収書や請求書をノートやファイルにまとめておくだけで十分です。
エクセルに支出を記録する方も増えています。
村上弁護士:「『説明できる状態』を保つこと。
それが、家族からの信頼を維持するために必要な工夫です。」
② できるだけ口座引落にする
施設費や光熱費など、定期的な支払いは口座引落や振込に切り替えるのがおすすめです。
現金の出し入れを減らすだけで、記録の手間も誤解のリスクも大幅に減ります。
③ 第三者を介入させる
本人の判断能力が低下してきたら、早めに成年後見制度の利用を検討します。
弁護士など第三者が後見人となることで、家庭裁判所の関与のもと、財産管理が公的に監督されるようになります。
成年後見制度を利用するメリット
後見人制度を利用すると、家庭裁判所の監督のもとで財産を管理することができます。
これにより、家族間の不信や不正の疑いが生じにくくなります。
| メリット | 内容 |
| 法的な代理権 | 後見人が本人の代わりに契約・支払いを行える |
| 透明な報告制度 | 年1回、家庭裁判所に財産目録を提出する義務がある |
| トラブル防止 | 公的に監視されるため、兄弟姉妹間の疑念を避けられる |
| 専門家による管理 | 弁護士が本人のために財産を管理する |
弁護士が入ることで防げること
弁護士が後見人や財産管理人として関与すると、
「どこまでが本人のための支出か」「家族間でどのように調整するか」を明確に整理できます。
感情の対立を防ぐことで、将来的な相続手続もスムーズに進められます。
「家族の関係を壊さないために、あえて第三者が入る」
これも大切な“家族を守る選択”の一つです。
まとめ:信頼を“見える化”する
「お金のトラブルの多くは、不正ではなく誤解から生まれる」
──これは多くの後見案件を担当してきた私の実感です。
- 支出の記録を残す
- 領収書を保管する
- 可能なら口座引落に切り替える
- 判断能力が低下したら成年後見を検討する
これらを意識するだけで、トラブルの芽を大きく減らせます。
お金の管理を“見える化”することが、信頼を守る第一歩です。
次回予告
Vol.4「遺産分割に後見人が必要なケース」
相続の手続きで「後見人を立てないと進められない」具体的な場面を、実例を交えて解説します。
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