はじめに:親の口座からお金を下ろせない?
「介護施設の費用を払いたいのに、親の通帳と印鑑を持って行っても銀行で断られた」
このようなご相談は非常に多くあります。
銀行では、たとえ実の子であっても、本人の委任や法的代理権がない場合、
お金を引き出すことができません。
認知症などで本人の判断能力が失われていると、委任能力の有無が問題となり、手続きが一層難しくなります。
しかし、そんな家族の負担を少しでも軽くするために、
最近、銀行では「50万円までの代理出金制度」という仕組みが設けられています。
銀行の「50万円までの代理出金制度」とは?
この制度は、認知症などで本人の判断能力が低下したとき、
家族が代わりに介護施設費用・医療費などを引き出せるようにした銀行の独自対応です。
全国銀行協会が2020年に策定したガイドラインをきっかけに、
多くの金融機関で運用が始まりました。
銀行によって運用は異なりますが、おおむね次のような条件で利用できます。
利用できる主な条件
- 本人が認知症などで判断能力を失っている
- 家族(配偶者・子など)が介護費・医療費のために出金する
- 後見人や任意代理人がいない状態である
出金の上限
- 1回につき50万円以内(銀行により月単位の上限設定あり)
用意する書類の例
- 本人の通帳と届出印
- 家族の本人確認書類
- 医師の診断書または介護保険証
- 支払い目的を示す請求書や領収書
どんなときに使えるのか
次のようなケースで利用されることが多いです。
| 状況 | 出金目的 |
| 親が認知症で入院 | 病院への医療費支払い |
| 介護施設に入所 | 入居費や生活費の支払い |
| 自宅介護中 | 介護用品・在宅サービスの費用 |
| 税金・光熱費の支払い | 公共料金の代理支払い |
この制度は、あくまで応急的な手段です。
後見制度を申立てる前に、緊急で費用を用意したいときなどに役立ちます。
注意しておきたいポイント
便利な制度ではありますが、利用にはいくつかの注意点もあります。
① 本人以外のために使ってはいけない
引き出したお金は、必ず本人のために使う必要があります。
たとえ家族の支出であっても、本人名義の資金を使うと「使い込み」とみなされるおそれがあります。
② 記録を残すことが大切
どのような目的で、いくら引き出し、何に使ったか。
領収書やメモを残しておくことで、後々のトラブルを防げます。
村上弁護士:「“説明できる状態”を保っておくことが、家族間の信頼を守る第一歩です。」
③ 銀行によって運用が異なる
同じ制度でも、銀行ごとに提出書類や上限金額が異なります。
事前に支店で確認しておくと安心です。
成年後見制度との違い
「それなら後見制度はいらないのでは?」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、この制度と成年後見制度は目的と範囲がまったく異なります。
| 比較項目 | 銀行の出金制度 | 成年後見制度 |
| 対象範囲 | 生活費・医療費などに限定 | 財産全般の管理・契約 |
| 手続き | 銀行窓口で簡易手続き | 家庭裁判所の申立てが必要 |
| 代理できる行為 | 出金のみ | 契約・不動産売却なども可能 |
| 効力の強さ | 銀行内でのみ有効 | 法的に包括的な代理権 |
| 期間 | 一時的 | 継続的(後見終了まで) |
つまり、代理出金制度は「短期的な保護」、
成年後見制度は「長期的な保護」を目的としています。
弁護士からのアドバイス
銀行の出金制度は、当面の支払いにはとても便利ですが、
継続的・ 恒常的な財産管理や契約行為まではカバーできません。
村上弁護士:「最初は銀行の代理出金制度を使い、
必要になった段階で成年後見制度に切り替える──
そんな“段階的な対応”が現実的です。」
焦って後見申立てをする前に、
まずはこの制度で一時対応をし、全体の状況を整理するのもひとつの方法です。
まとめ:慌てず、段階的に備える
- 銀行による「50万円までの代理出金制度」は、当面の介護費・医療費等を支払うための応急処置。
- ただし、本人以外の支出に使ったり、記録を残さなかったりすると、後でトラブルになることも。
- 判断能力の低下が進んでいる場合は、早めに専門家へ相談し、成年後見制度への移行を検討しましょう。
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