1 事案の概要
被害者の方が自転車,加害者が自動車という人身事故で,被害者(後遺障害等級14級)の方からのご依頼でした。
依頼者の方は,午前からお昼過ぎまで運送の仕事,夜は飲食店の経営をしており,上記事故により両方の仕事に支障を来している状態でした。
それにもかかわらず,保険会社から提示された賠償内容は,後遺障害慰謝料は自賠責基準,逸失利益は一切認めないというものでした。また,通院慰謝料は裁判基準の4割弱の金額でした。
そこで、後遺障害による逸失利益及び裁判基準に基づく後遺障害慰謝料・通院慰謝料の増額を保険会社に求めることとなりました。
2 交渉における法的問題点
(1)そもそも後遺障害による逸失利益が認められる事案なのか
本件における後遺障害は,一般的に見て業務上の支障が少ないと思われる部位におけるものであったため,保険会社内部の基準に基づく場合,逸失利益が認められない後遺障害に該当するとの主張がありました。
(2)逸失利益の算定の基礎となる年間収入をいくらと算定するのか
ア 給与所得
依頼者の方は,事故後バイトから正社員になっており,収入が増加していたため,仮に逸失利益が認められたとしても,いずれの時点の給料を逸失利益の基礎収入とするかのにつき争いがありました。
イ 事業所得
飲食店経営の方は確定申告上赤字であり,事故による逸失利益が存在しないのではないかとも考えられました。
(3)労働能力喪失期間は何年間なのか
①保険会社内部の基準に基づく場合,逸失利益が認められない後遺障害に該当すること,②後遺障害等級14級の事案であることより,労働能力喪失期間(逸失利益が認められる期間)が何年間認められるのか問題が生じていました。
3 紛争の解決
(1)そもそも後遺障害による逸失利益が認められる事案なのか
まず,当事務所の弁護士において,同様の後遺障害等級で逸失利益が認められた裁判例を詳細に調査し,業務上の支障が少ないと考えられるものの,逸失利益が認められた裁判例を保険会社に複数提出しました。また,後遺障害による業務上の影響に関する詳細な陳述書を作成し提出しました。
これにより,業務上の支障が認められないため逸失利益が認められないとの保険会社の主張を退けることが出来ました。
(2)逸失利益の算定の基礎となる年間収入をいくらと算定するのか
ア 給与所得
依頼者の方は,事故後バイトから正社員となっていることに関しては,逸失利益の損害発生は将来にわたるものであり,「将来,現実収入額以上の収入を得られる立証があれば,その金額が基礎収入となる。」とされていることを主張しました。
イ 事業所得
飲食店経営が確定申告上赤字となっていることに関しては,事業開始後間がない時期に受傷した場合,後遺障害による逸失利益の算定は将来にわたる長期間の収入額を予測することから,事故時の実績があまりない時点での収入額を基礎に算定すべきではなく,賃金センサス(全国の賃金の統計資料)などを参考に適切な金額を認定すべきであることを主張し,独立から事故までに3年が経過していた事案において,「独立から間もない時期」であると認定した裁判例を提出しました。
ウ 小括
以上より,給与所得に関しては,事故後の正社員としての給与を前提として,事業所得に関しては,確定申告上の記載によるのではなく,賃金センサスに基づき一定割合の所得があることを前提に,逸失利益を算定することになりました。
(3)労働能力喪失期間は何年間なのか
保険会社は,仮に後遺障害による逸失利益を認めたとしても,会社内部の基準で逸失利益が認められない後遺障害に該当する以上,労働能力喪失期間(逸失利益が認められる期間)は,2~3年程度までしか認められないと強固に主張してきました。
これに対し,当事務所の弁護士は,業務上の支障が少ないと考えられるものの,逸失利益が長期間認められた裁判例を複数提出し,労働能力喪失期間を6年間程度とすることにつき合意を得ることが出来ました。
(4)後遺障害慰謝料・通院慰謝料
後遺障害慰謝料,通院慰謝料に関しては弁護士が介入することで,裁判基準に従った金額に増額されました。
4 総括
本件は法的な問題が複数存在しましたが,当事務所の弁護士が1つ1つ丁寧に交渉し,ご相談から約4か月で,示談金が約3.5倍(250万円増)に増加しました。
人身傷害においては,保険会社の提示は裁判基準より大きく低いことが多く,弁護士が介入することで,大きな金額上昇が見込めるのが特徴です。弁護士に依頼する程でもないと考え,保険会社と直接やり取りを行っている場合でも,最終的な示談の段階で弁護士が介入することで,大幅な示談金増加となるケースが数多くあります。
保険会社から示談に関する提案を貰った段階で,その金額が適正なものかどうか,まず当事務所にご相談ください。