セミナー実施報告(介護事故)
平成30年4月18日,弁護士村上和也及び弁護士尾崎賢司で,守口市通所サービス事業者連絡会にて,介護事故(転倒・誤嚥)から「施設を永続して守る方法」というテーマで,セミナー講師を担当させていただきました。
主な内容は以下のとおりです。
1,異なる想い
(1)事業所側の想い
(2)家族側の想い
2,事故後の対応
(1)家族の考え
(2)事業者のとるべき対応
(3)クレーマー対応
(4)提訴のハードル,証拠保全
3,事例検討(転倒・誤嚥)
(1)一般論
(2)転倒
予見可能性のファクター
転倒のリスクマネジメント
(3)誤嚥
予見可能性のファクター
誤嚥のリスクマネジメント
(4)判例検討
ア 転倒事例
東京地裁 平成17年6月7日判決 認容事例
(事故概要)
原告は要介護3であったので,被告との間で,利用者として,被告が経営する事業所と訪問介護契約(以下「本件介護契約」)を締結して,訪問介護を開始。
本件介護契約には,原告が内科で診療を受けた後にタクシーで帰宅する際の一切の介護が内容含まれていた。
原告は内科での受診後,内科の玄関前で転倒し(「本件事故」),右大腿部骨折の傷害を負い,歩行不能となった。
(予見可能性)
①被告のサービス提供責任者は,原告親族からの要望を受けて,室外での歩行介助においては原告の腕をくむ等,必ず原告の身体に触れた介助を定めていたこと,②同責任者がこれをヘルパーに伝えていたこと等より,同責任者及びヘルパーは原告の転倒の危険を十分認識していたことが認められる。
(結果回避義務)
本件事故当時,外は土砂降りの雨であったので,本件事故現場は屋内であったとしても建物の出入り口は雨でタイル張りの床面が滑りやすくなっていたことが推測される。
このような場合,担当ヘルパーとしては,内科の玄関から原告を歩行介助する際,荷物をタクシー内に置くなどして自らの身体の動きを確保したうえで,原告の左の腕を組んだり,腰に回したり,あるいは体を密着して転倒しないようにしたりして,病院外に出るべき義務があった。
ところが,担当ヘルパーは,左手で雨傘を持ったまま,原告に単に右手を差し伸べただけであった。すなわち,原告の身体に自己の身体を密着させて歩行を介助する義務を怠り,これにより,原告は佇立の状態から足を踏出した途端バランスを崩し,右でん部より尻もちをつくようにしてその場に転倒し,その結果,右大腿骨頸部骨折の傷害を負った。
よって,過失があるといえる。
(認容額)
合計1149万5367円
イ 誤嚥事例
広島地裁福山支部平成23年10月4日判決 認容事例
(事故概要)
デイサービス利用者が,他の利用者が持参していた飴(あめ)玉をもらって,喉に詰めてしまい,翌日,急性呼吸不全により死亡した。
(安全配慮義務違反の内容)
施設の職員は,食事後,本人が飴を喉に詰めてむせている場面を,午後1時15分から午後1時20分ころに発見。
背部叩打法,ハイムリック法,吸引等の措置により,本人の喉頭から飴を取り出そうとしたが,功を奏さなかった。
午後1時20分ころには,本人は顔色不良となっており,窒息(あるいはそれに近い)状態となっていたものと認められ(職員が人工呼吸,心臓マッサージを実施していたことが,この状態を裏付けうる),遅くともこの時点においては,職員は救急車を要請すべきであった。
しかし,施設は午後1時30分になってはじめて救急車を要請。
要請後10分で救急車が到達し,間もなく,救急隊員により本人の喉頭から飴が取り出していることからして,少なくとも10分間の遅れは,本人の生命に重大な影響を及ぼしたものと推認できる。
(認容額)
慰謝料1000万円