遺言書の種類・方式
1.遺言の種類
不要な相続争いを回避する、あるいは希望に沿った遺産分けをする場合に活用される遺言ですが、民法には遺言に関して、その種類および方式が明確に規定されています。
これから遺言書を作成しようと考えている方は、遺言の種類や方式、またそれぞれのメリット・デメリットをきっちり押さえておく必要があります。
遺言を大きく分けると「普通方式遺言」と「特別方式遺言」の2種類があります。
「普通方式遺言」は、文字どおり通常の生活の中で遺言を作成する場合の作成方法であり、「特別方式遺言」は、普通方式遺言ができない特殊な状況での作成方法です。
【普通方式遺言】
自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言
【特別方式遺言】
死亡危急者遺言・伝染病隔離者遺言・在船者遺言・船舶避難者遺言
2.普通方式遺言
普通方式遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります
(1) 自筆証書遺言(民968条)
自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を直筆し、捺印して作成します。
紙と筆記具があれば作成可能で、用紙の制限はなく、筆記具もボールペン・万年筆など自由に使用して構いません。
<自筆証書遺言のメリット>
- ・費用がかからず、手軽に作成できる
- ・1人で作成するので、内容が漏れることがない
<自筆証書遺言のデメリット>
- ・法定の方式に従っていないと無効になるおそれがある
- ・遺言の存在をどのように遺族に知らせるかが問題になる
- ・紛失のおそれがある
- ・遺言書を開封する際に家庭裁判所の検認が必要となる
*「検認」とは
遺言書(公正証書遺言を除く)の保管者、または発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。(民1004条)
検認とは、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、訂正の状態、日付、署名など検認の日現在の遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続をいいます。
遺言の有効性を判断する手続ではありません。
(2) 公正証書遺言(民969条)
公正証書遺言は、遺言者本人が公証役場に出向き、証人2人以上の立会いのもとで、遺言内容を口述し、公証人が筆記して作成します。
公証人は、筆記した遺言書を、本人と証人に読み聞かせ、または閲覧させ、それぞれに署名・押印を求めます。
最後に、公証人がその証書は所定の方式に従って作成したものである旨を付記して、これに署名・押印します。
原本は公証役場で保管してもらいます。
※公正証書遺言は、遺言者が高齢で体力が弱り、あるいは病気等のため、公証役場に出向くことが困難な場合には、公証人が、遺言者の自宅又は病院等へ出張して遺言書を作成することもできます。
<公正証書遺言のメリット>
- ・公証人によって方式・内容のチェックを受けるので、確実に遺言を残すことができる
- ・家庭裁判所の検認が不要(開封時に余計な手間がかからない)
- ・公証役場で原本が保管されているので、紛失のおそれがない
<公正証書遺言のデメリット>
- ・費用がかかる
- ・証人2人以上の立ち合いが必要となる
- ・遺言内容が公証人・証人に一旦知られることになる
(3) 秘密証書遺言(民970条)
秘密証書遺言は、公正証書遺言と同じく、公証役場で作成します。
遺言者は、遺言書に署名・捺印をして封印し、公証人役場に持参し、公証人1人、証人2人以上の前に封をした遺言書を提出します。
公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者・証人と共にこれに署名・押印します。
作成した秘密証書遺言は、公証役場で保管してもらうことができます。
<秘密証書遺言のメリット>
- ・自筆証書遺言と同じく、遺言内容を他に知られない
- ・自筆証書遺言に比べ、隠匿、紛失のおそれがない
- ・遺言書の存在を遺族に知らせることができる
<秘密証書遺言のデメリット>
- ・遺言内容に不備があったり、所定の方式に従っていないと、遺言が無効になるおそれがある
- ・費用がかかる
- ・遺言書を開封する際に家庭裁判所の検認が必要となる
3.特別方式遺言(民976条-983条)
特別方式遺言には、死亡危急者遺言・伝染病隔離者遺言・在船者遺言・船舶避難者遺言の4種類があります。いずれも普通方式遺言が困難な特殊な状況でのみ認められており、方式の要件が緩和されています。
なお、死亡危急者遺言(危急時遺言)については、遺言の日から20日以内に、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求して、その確認を得なければ効力が生じません(民976条4項)。
特別方式遺言は、遺言を残した後に危険な状況から脱し、遺言者が普通方式遺言が可能な状態になって6カ月間生存した場合、無効になります(民983条)。
いずれにしても、緊急事態に遺言を残すのは困難なことですから、日常の生活の落ち着いた状態で、遺言内容をしっかり考え、専門家に相談しながら作成するのがよいでしょう。